04




「ひっあ、あぐ、っ――あ」

卑猥な粘着質の音が響き渡る。アナルは好き勝手弄られ、僕の我慢汁とローションが一緒になり、耳障りな音を醸し出す。

「ふふ、ねぇ充葉ぁ、ここ、気持ち良いでしょう」
「ちがっ」
「嘘って判るよぉん。だって、気持ち良いって身体は言っているんだからぁん」

ジルは僕のペニスを握る。勃起している状態なので、上手な反論が見当たるわけもなく、顔を歪め耐えるしかない。

初めて身体を交わった日から日課となっている、この行為。
今日は、けど特別だった……――


そう、確か、帰宅しようとするジルを引きとめ体育祭に出るよう説得しようとしたのだ。本当は放課後までに説得を試みるつもりだったのに、忙しくてジルの傍に行けなかった。だから、焦って帰宅すると知っている放課後に呼びとめるようなことになってしまった。別に明日でも良かったのに、今日、引きとめてしまったのは、僕が懇願した表情を見せれば、もしかしたらジルは止まってくれるのではないかという、自惚れと期待。
呼びとめる際、高まった声は密かに震えていた。ジル、と名前を吐きだす。けれど、ジルは僕を一瞥すると、にやりと笑った後、真横を通り抜けていった。あ、と衝撃がずどんと脳髄に打ち込まれたのは一瞬で、小さくなっていくジルの背中を呆然と眺めていた。
一連の流れを見ていた、坂本は僕を指差して笑い、しょせんお前も、と言われているような気分になった。知っているから。所詮、僕も、一番ではない。所詮、僕も、あいつの背景の一つだということくらい。
情けない、きめぇ、と僕に暴言を吐きだす坂本に溜め息をつきながら、席に着く。別に、今更だ。性交をするようになったからといって、あいつの中における、僕に位置が変わったわけじゃない。
直帰しても良かったけど、なんだかジルの後を追うようで悔しかったから、委員会で配られた書類の整理と、今日出された宿題をしてから帰宅しようと決め、鞄を開く。
先ほどまで騒がしかった教室は、部活動へ行く人が散り、家へだらだらと帰る人が消え、放課後、バイトへ行く人やカラオケに行く人が消え、僕一人になった。閑散とした静けさを保つ教室。浮足立っていた埃が落ち、湿っぽい空気が鼻につく。
一人だけで、教室に残るには久しぶりになる。いつも、この教室に残るときは、ジルがいたから。執拗に絡まる腕や舌を解くのに、苦労した。流されてしまい、受容している自分を叱咤した。苦悩するのを、ほどほどにし、追いつめ、理解するのを止めた。様々な感情は交差していたけど、結局、やることはいつも一緒。




「充葉ぁん」

そう、この声。この、声が、僕の神経の先から先まで支配する。

「ふふ、充葉ぁ、聞いてないのぉ」

顎の下に指を添えられる。え? と疑問を抱いた瞬間にはもう遅く、無理矢理、顔を上に上げさせられ、口づけを交わされる。ジルの分厚い唇が僕の薄い唇に触れ、隙間から舌を入れられ、口内を好き勝手弄くられる。

「ジ、ル? どうして」
「あのねぇ、母さん、今日、父さんがいるから大丈夫なんだってぇ。だから、帰ってきたよぉ。充葉、用事あるみたいだったしぃ。充葉の性格だったらぁ、まだ残ってるかなぁって」

充葉のことだったらなんだって判るんだよぉ、と、そのあと、ジルは陳腐な台詞を吐きだした。
陳腐だ、と表面上、笑っていなければ耐えきれないくらい、僕の身体はその言葉一つで熱を持った。
母親が良いと判ったといえ、ジルが戻ってきてくれたのが、僕は嬉しかった。じんじんと、指先が鼓動する。知らなかった熱が放出される感覚が、身体を包み込む。

「ジル」

嬉しくて、名前を呼んだ。ジルは僕のそんな心情を察したのか、余裕のある笑みを浮かべ、僕の肌に触れる。



「ねぇ、充葉ぁ、セックスしようかぁ。ねぇ、ふふ。用事はその後で、聞いてあげるねぇ」


どうせ対したことない用事でしょう、と決めつけられているようで、癪だったけれど、ジルにとって母親に纏わること以外は、全部、大したことないに含まれると知っていたので、苛立っても無駄だと思ったので、なにも言わなかった。
それより、ジルが戻ってきてくれたという現実が嬉しかった。
簡単な男だ。
自分で抱く感情。




それから、ジルは僕の身体を持ち上げ、床に倒した。汚いと、普段は床に手なんて触れないのに、こういうときは気にならないんだなぁと、ぼんやり思いながら、脱がされていく衣服。その度に触れる、冷たい手に酔った。ここが教室であるとか、当たり前のことが最近は気にならなくなっている末期症状が、どこかでこの行為は間違いだと忠告しているようだったけど、気にはならなかった。


「ジル」

と、名前を呼べば、肩に手を回すことを許してくれた。それが、とても幸せで馬鹿臭かったのだ。











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