アレックスとエアハルト | ナノ





爪先を舐めさす。エアハルトの短い舌がアレックスの親指にまとわりつく。唾液が付着して付け根の隙間がどろっとした粘着力のある滑りが生まれた。

「もう勃たせてんじゃねぇか」
「はぁっぁ、すみません。アレックスっぁ……」

舐めているだけだというのに、ハーフパンツの上から勃起を主張する陰茎をアレックスは踏み潰した。

「ひゃいっぁぁ、アレックスっぁ」
「身体冷やすから、着込めって言ったろうが」

エアハルトの病弱を絵に描いたような、皮と骨で構築された身体には、サイズが大きい長袖とハーフパンツだけを身につけていた。座り込んでしまえば、腰骨が括れていることや、陰毛がちらっと見え隠れする。
誘ってんのか? と無防備極まりない格好に対しアレックスが述べた。エアハルトは「なにをですか?」と黒真珠のように眩い光を殺す双眸を大きく見開き答えた。
なにをですか? じゃねぇよ、誘ってねぇんだったら、風邪ひくから着込め。
溜め息を吐き出しながら、アレックスが告げると、面倒だという表情を垣間見せたエアハルトに、再び深い溜め息と共に「もう、ヤっちまうか」という肉声が漏らされた。

舐めろ、と命令すると従順に奉仕する。基本的にアレックスのいうことを拒絶することがないエアハルトだが、自身の体調に関しては中々いうことを利かない。
病院にも「いやいや、アレックスと一緒にいられなくなるじゃないですか。それに、行っても治りませんよ。怖いです」と肩にエアハルトを担いで連れていかないと、動こうとしない。服を着込めという命令に対しても同じことだ。
長年、病気と付き合ってきた、エアハルトはアレックスより病気というものに対して「どこまでいったら、ダメだ」という境界線を理解している、というのが、アレックスの命令さえ彼が躊躇する原因となるのだろう。
アレックスはそれに苛立つことが良くある。
エアハルトの理解は「しょうがない」という諦めに繋がることだ。何度も死をさ迷い、宣告され、大丈夫でした、という宣言をされ続けてきたエアハルトだからこそ、身体の許容範囲を越えた時に受ける衝撃を「仕方ないことだ」で終わらせることが出来る。アレックスには到底、理解し難い感情である。
アレックスは稀にコイツが生きているのは俺と結婚したからだ、と思う時がある。女王から俺に捧げられた褒美だと自惚れる。アレックスは自分にそれだけの価値があると自負していたし、自分が「生きろ」と念じたから、もう死ぬ予定だったコイツは生き返ってきたのではないかと、滑稽なことを考えて溜め息を吐き出す。
正式にいうと、そんな風に考えなければ、突如として襲い来るエアハルトの死が恐ろしくて堪らないのだ。


執着する存在がいるのは厄介なことだとアレックスはエアハルトの腰骨を掴み、肉棒で突く。
すぐに弱くなる。護らなければいけないと神経を張り巡らす。精神が安定しない。不安になり、面倒が増える。
今、思い付くだけでも面倒の連続だ。知っている。この面倒さは。既に経験があった。貴族として生まれ、五大貴族に執着し、女王を求め、翻弄された。策略を練り、嘆き、奥歯を噛み締めた、自身の幼く、情けない経験がすべてを物語っているようだった。
だから、もう、厄介な存在は抱え込まないと決めていたのに。背負ってしまったのだから、ある種の「敗北」を認め、面倒でならない事柄に対処していくしか、ないのだろう。
ただ、アレックスはこの面倒さから逃げるつもりは、毛頭なかった。闘って勝利をおさめるつもりでいたし、逃げてしまっては、エアハルトとの間にあるすべてのものを放置し捨てることになる。そんなものは、生きていて、なに一つ楽しくない。
息が荒くなる。
まったく好みではない、貧相な身体が揺れている。汗を滴り流し、喘ぎ声が漏れる。巨乳が好きだが、エアハルトは胸は飾り程度であるし、どこもかしこも、発達していない。欲望とは直結しない身体。けど、抱きたくて、蹂躙したくて、たまらなくなる。


「お前は一生、俺のものだから、安心して寝とけ」

疲れ果て、ベッドで寝転ぶエアハルトの前髪を撫でながら囁いた。
手離すつもりなど、ない。

例え女王であってもだ。

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