トラと帝 | ナノ




女の膣はカイラクと直結している。ペニスをぶち込んでやると、肉壁が俺の根本を締め上げ、煩い嬌声が鼓膜に響く。女は腰を降って、胸を鷲掴みにしてやると、痛いと騒ぐ。
お前はただ喘いでいれば良いのにウルセー奴だと溜め息を吐き出す。はぁ、と吐き出された溜め息の意味に女は気付かない。
「もう、トラったら乱暴なんだから」と乾いた声色。本人は可愛いつもりかも知れねェけど、耳障りな寝れない夜に聞く高速道路の車が走り去る雑音みてぇだ。
例えば、こんな時、あの子だったら、すぐに気付くことが出来る。「ご、ごめんねトラ。僕、」とすぐに謝罪してくる。自分が悪くねェことまで謝罪してきて、俺を不機嫌にさせる。
あの子の声は次第に小さくなる。自分の声が俺を不機嫌にさせていると気付くからだ。俺はあの子が黙っても気分を低下させる。業と威嚇するように大きな音をたてる。アーーア゙ァ。喉が罵声を浴びせるように鳴る。そうしたら、あの子は自分なんかいない方が良いんじゃないか……なんていう健気で苛立つ答えを持った眼差しで俺を見てくる。泣いているみてぇなのに、眸にぐんぐん引き込まれて離されない色をしている。
正気に戻ると諧謔を飛ばし、あの子の皮と骨、柔らかな肉で構成された肩を掴むと引き寄せ、口付けをする。義務行為にあの子は健気に喜ぶ。


「トラ、もうイっちゃうっぁん」

あの子とは違う肉声が聞こえた。
アーーチクショウ、イけなかったじゃねぇか。この女、相性サイアクだな。












「トラ、おかえりなさい」

へらっと帝が玄関から顔を出す。エプロンをかけて、今日はシチューの香りがする。女とセックスしたばかりの俺を覆い隠す。
寒い日だからシチューにしたのか、シチューが丁度食べたい気分だった。
靴を適当に脱いで、コートを押し付ける。胸に抱き締めたコートをぎゅうっと握り「ご飯食べる? お風呂入る?」と尋ねてくる。俺は「メシ」と不器用に告げ、食卓にシチューが出てくるのを座って待った。
帝はコートを皺にならないよう、ハンガーにかけ、あたたかいシチューを出してくる。湯気があがり、暖房が快適についた、この部屋で、スプーン片手に腹のなかへ掻き込んだ。ちろっと帝の方へ目線を上げると、この世で一番幸福な存在みたいに笑っていて、苛立った。

「今日は何してたんだよ」
「あ、今日は、授業受けてたよ」
「一人か? それか、黒目とか」
「……一人でだよ」
「友達作れよ」
「が、頑張ってみるね」
「なんか、嫌なことがあったらいえ」

俺が解決してやる、という言葉を飲み込む。俺の解決方法(暴力)と帝の解決方法が違うことくらいは、知っていた。
帝も判っているのに、優しいあの子は「うん」と頷いた。迷いがない頷きだった。そんなものが俺の神経を裁断していく。



「帝、セックスするか?」
「え、あ、あの」
「したいんだろ。良いぜ」

恋人同士がセックスするのは普通だ。それに俺が知らない帝の表情がセックス中は良く見える。
可哀想だろ。せっかく恋人なのにセックスしないなんて。義務だろ、セックスって。コイツだって判っている筈だ。別に俺がお前とヤりたいわけじゃないってことくれぇ。
どうする、と視線をやると「ごめんね、トラ」という顔つきでこっちを見てきた。他の女なら「ありがとう、気持ち良くするね」くらい言ってくる。俺とセックスするのに、謝罪してくる子は、この子一人だ。
むしゃくしゃするから、後頭部をつかんで、強引にキスしてやった。吐息が「ぁっはぁ、」と帝の口許から漏れる。足下が小鹿のように震え、力が抜けていく。一人では立っていられないのだろう。俺は帝を引き寄せ、ベッドまで運び放り投げる。
どこをとっても魅力的ではない、男の質素な身体。華奢で、骨が足首から浮かび上がっている。帝の身体。手を服の隙間から侵入させると、何回しても慣れねぇ身体がびくびく揺れる。瞼をぎゅうっと瞑っている。
「トラっぁ、ぼ、ぼく、のっ」
「黙ってろよ、帝」

頭を撫でながら口を塞ぐ。余計な謝罪は必要ない。ベッドの上で繰り広げられる、甘言にも興味がねェ。お前が次にいう言葉なんて、決まってる。「好きになって、ごめんね」だろ。そうだろ! ウルセーんだよ、好きとか言ってんじゃねぇよ! 俺たちは幼馴染みだろうが! 恋愛対象とは真逆の場所だろうが! 男同士だろうが! 好きとか、それに対しての謝罪とか! 必要ねぇんだよ。ウゼーーアーーア゙!


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