樹とたすく | ナノ





たすくの髪がベッドシーツに付着している。掃除をするさい樹は綺麗にこれをガムテープで剥がしていき、綺麗な布団にする。掃除というのは効率の話なので、本当は丁寧に髪の毛を一本、一本つまみ上げたいが、そんなことしていたなら時間が足りない。樹は掃除をしてたすくの洗濯物を干して、料理を食べて、セックスして、寝静まったのを確認したらアルバイトへ出掛けて、帰宅し、一時間だけたすくの匂いをたすくの横で嗅いだあと仮眠をとる。ぴったり一時間後目を醒まして、走り込みへ出掛け、朝御飯をたすくのために作らなければならない。たすくが喜んでくれるなら、別にへっちゃらなことだ。お金は必要だし、快適な生活を送るために労働力は必要だし、たすくの世話を誰かにさせるなんて、気持ち悪くて思わず、ぐしゃりと握り潰してしまう吐き気がする行為を想像のなかでだってしたくないのだ。
だからこそ、時間は重要。広い集めた髪の毛をガムテープから剥がし、舌先を突きだし「いただきます」と丁寧に挨拶してから、召し上がる。舌に付着して歯に絡まりだしそうになる、髪の毛を噛み砕く。たすくの髪の毛を内緒で食べるなんてこと、日課なので気にせずごっくん。「あーー旨かった」いつか根本から食べさせてくれねぇかなぁと呟きながら背伸びして、部屋を出た。
洗濯物を干し終わると、夕飯の買い物へ出掛ける。買い溜めは新鮮な野菜をたすくに食べてもらうため、不必要な制度だ。母親や祖母には「はぁ、この程度の労働もせずに俺と張り合うの。二人とも専業主婦なくせに。文句があるなら、言い返せるようになってからにしろよ。たすくは今日、グラタンが食べたいんだよ」と言っておいた。高級スーパーで財布(食費を買う時は家の財布から出す)を取りだし、食材を買い込んでいき、さっさとスーパーを後にする。あーグラタンを食べた時のたすくの顔、たすくの顔、たすくの顔、可愛いんだろうなぁ、面白いんだろうなぁ、頬っぺたが落ちそうだよ、とかゲロ甘い言葉でいうんだろうな、ホワイトソースには生クリームもいれるけど豆乳で作るからカロリーは安心しろよ、なんて馬鹿みたいなことを考えていると真横から不愉快な声が聞こえてきた。

「樹じゃん」
「わーー久しぶりだよなぁ。最近、来ねぇじゃんお前」

樹は邪魔だなコイツら誰だよキメェと思いながらも、頭の片隅で、対象者の肉声や仕草、瞬きをした数、唇の形、それらを称号していき、記憶の塵棄て場に残る記憶を引き上げてくる。
ああ、そうか、コイツらは569867と6579817か。たいした不幸じゃねぇのに、ビィビィ泣いて私って可哀想なのアピールをしながらドラッグに溺れていた連中だ。今も飲んでいるのか、目元が黒い。あまりにもドラッグを薦められるのが目障りで最後は悲しみに加工された表情からも興味を泣くし、何発か男の腹を足で潰してやってさよならした連中だ。

「はぁ、行くわけないでしょ。君たちって中身薄いんだよ。片親で苦労してきたぁ。んな連中、山のようにいるでしょう。暴力を振るわれたって、テメェは振るい返して、学校で苛めてたくせに、俺は私は可哀想でしょうって、全然、可哀想じゃないね。そんな不幸を見ても興奮しない。ナンセンスだよね。シンギュラリティが自分達にあるとでも??深奥に尋ねてみな。君たちぐらいの人間はたくさんいるって解るから。それに、薬って嫌いなんだよねぇ。人に進めるなんてサイテーだよ」

アハハハと高笑いしながらも、自分が苛立ちを募らせていると樹は知り、あーー更に面倒だと溜め息をつく。男の方、顔面を掴み路地裏へ連れていく。コンクリートへ顔面をボーリングの球みたいに投げる。女は発狂し「まさしぃ、まさしぃ」と泣いている。

「俺、親の教育で一応、女性は殴らない主義なの。必要あれば殴るけど。今は許してあげるから、失せろよ。んで、この近くに二度と近寄るなよ。目玉とか無くなっちゃうよぉ。あぁ君たちご自慢の不幸話のレパートリーが増えるね。どうする?」

にっこりと笑うと女はマサシを連れて走り出した。ハハ、随分、滑稽だなぁ。ようやく君たちを人間として愛してあげられそうだよ。嘘だけど。
樹は路地裏から大通りへ戻ると今度は後ろから自分が生きる意味を詰め込んでいる少年がてくてくと、こちらへ向かってくる。

「樹ーー」
「たすく。おかえり。あ、けどまだご飯出来てないや。ごめんな」
「良いよ。いっつも美味しいから。今日も楽しみだなぁ」
「そう。けど、落ち込んじゃった、俺」


ぎゅうっと後ろから抱き締めると、たすくは「甘えたさんだなぁ」とふわふわ笑う。
あーー良かった。この道、たすく通るんだよなぁ。通学路なんだよ。人間のクズがいたら、たすくが危ないだろう。


「ところで、たすく、今度、髪の毛、直接食べさせてよ」
「え、だめだよ。なに言ってんの」
「はぁ、なに言ってんの。たすくに拒否権なんかないけど」

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