ランと壱夏 | ナノ




私は言いたいことを伝えられずに終わることが殆どです。あと一歩が届かなくて歯痒い思いをします。
以前、りっちゃんから妊娠について相談された時、宇宙みたいな次元の話を上手に咀嚼出来ませんでした。りっちゃんは震えながら、今後の不安を話してくれました。同時にりっちゃんは「嬉しくもあり、嬉しいと思う自分を穢いと感じる」という言葉も漏らしました。私には穢さがわかりませんでしたから「穢くないよ」と肩を叩きました。りっちゃんは何一つ穢くなくて、綺麗な恋に生きる女の子なのですから、穢くないのに私は一言を捻り出すのに必死で、どうしてりっちゃんは穢くないのか、ということを喋れずにいたのです。
「これでキヨと離れずに済むもの。私は彼が性的なことに疎いと知っていたのに教えなかった。ただ、流される女を演じつつ、狡猾に獲物を狙っているなんて穢い以外のなにものでもないわね」なんてりっちゃんは告げるのです。りっちゃんの双眸には涙がつまってました。りっちゃんは賢くて気丈で私と違っててきぱき行動できる子なのに、震えながら「ごめんね」と泣きます。私は「大丈夫だよ」と伝えます。りっちゃんはそれだけキヨを愛している証拠だよ、し、知らなかったキヨも悪いし、りっちゃんが思う気持ちはとってもピュアなものだから、平気だよ。あと普通だからそれ。自分を下げないで。子どもだってりっちゃんから生まれてきたら幸せだし、キヨも可愛がってくれるよ。いらないものって言われる方が悲しいよ、二人は夫婦になるけど、二人きりになることはないから、なにかあったら周囲に頼って良いんだよ、という言葉が胸のなかで踊り跳び跳ねているのに、喋ろうとしたら、噛んでしまい、録に喋れませんでした。「大丈夫だよ、りっちゃんが大好き」なんて幼い言葉を吐き出すのはやっとで、それでもりっちゃんは「壱夏は優しいね」と笑ってくれるのです。壱夏は、壱夏はもっと、ちゃんと喋りたいのに、心のなかで育つ感情を伝えたいのに、一言どころじゃなく、二言も三言もたりないのです。

りっちゃんや佐治くんは言います。
「それは貴女の美点だわ。いつも必死で、一言の意味をきちんと知っているからでしょう」と。二人は壱夏を持ち上げてくれるのです。
「あら、それにランと一緒にいるときは、すらすら喋るじゃに」
にこっとりっちゃんは笑います。佐治くんも笑います。私は顔が真っ赤になります。
ランくんといる時は確かにお喋りさんになるんです。あとランくんは壱夏が喋れなくても勝手にぺらぺら喋ってくれますから。ランくんはマシンガントークなんです。よく自分のことと私のことを誉めてくれます。ランくんは同じ双子なのに(血は半分しか繋がっていませんが)自分に対して自信満々で、むしろ自分と家族以外興味がないのかと思ってしまうほどなのです。だから、壱夏もぺらぺらお喋り出来るんです。壱夏はランくんが好きなんです。ランくんはとっても自分の世界を持っていて、それが、ちょっと、多分ちょっとですよ、可笑しな方向に進ことがあるけど、真っ直ぐと芯が通っているんです。りっちゃんはランくんのことを「壱夏しか見えてない変態なだけだよ」と評価しますが、壱夏が喋っているのを見て幸せそうだなぁって言ってくれますから、きっと本心じゃないんです。壱夏はぺらぺら、ぺらぺら喋れるランくんが大好きです。自分に自信がなくて、二言も一言も足りない壱夏ですが、ランくんの傍にいると、そんなことなくなるんです。不思議ですね。けど、きっとこれが大好きってことなんだということは、知っているんです。

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