02




高校三年生になった。
僕は相変わらず委員長を続けている。今年も変わらず、ジルの友達から僕に投げかけられるあだ名は委員長だということが安易に想像ついた。そもそも、僕らが通う、オフィーリアはクラス替えという制度がなく、一年から定着したあだ名が今更、変わるわけもないのだが。



「では、今度のホームルームで体育祭の種目を決めてきて下さい」

議長の御言葉が下る。受験を控えた三年生にとって、体育祭という行事は前夜祭のようなものだ。体育祭が終わると、直ぐに夏になる。夏になれば、各々、受験勉強を本格的に取り組んでいかなければならない時期だ。次の息抜きである文化祭まで、夏休みは慣れ親しみ三年間時間を費やした委員会や部活動を引退し、勉強する時間。だからこそ、この体育祭は自棄に盛り上がる。ああ、勿論、僕らみたいな地味系、というか運動が苦手な人種は抜くけど。それでも、どこか浮足立った空気が肌で感じ取れる。ちなみに、僕は運動が苦手ではない。好んでは行わないが、普通だ。平均的なタイムである。寧ろ、良い方ではないかとさえ思うのに、横で流すように走るジルにタイムは抜かれてしまう。そんなの、小学生の時からの常識だ。


「まったく嫌になるよね」

飯沼くんだ。
運動が苦手といえば、飯沼くんは最たる例だ。見目から文科系、運動が出来ませんという雰囲気を垂れ流しているが、それを裏切らない。良くそのことについて、体育祭が近くなると僕に愚痴ってきていたから。本当に身体を動かすということが苦手なんだろう。嫌だ嫌だと呟きながらも、体育祭をサボったことがないという現実が如何にも彼らしくて、少し笑ってしまいそうになる。嫌だからといって、逃げるという選択肢に繋がらない。寧ろ、逃げ、サボる人間に対し嫌悪感を抱くタイプだ。僕もどちらかといえば、そうだけど、彼程じゃない。サボるのは個人の自由だし、けど、当日に意図的にサボるんじゃなく、前日から告げておいて欲しいとは思う。迷惑がかかるということが判らないのだろうか。病気とかなら仕方ないと踏ん切りもつくけど、故意的に来ることがないというのは、苛立ちしか感じない。自己中心的な行為であることをもっと自覚を持って欲しい。ただ、僕の場合、ここで、まぁ、良いけど、と諦めてしまえるのだ。それに対し、飯沼くんはずっと胸の中に怒りを抱えているのだろう。

「そうだね。けど、最後だから」
「充葉くん……だよね、頑張ろう」
「うん、委員会の方も、残り僅かだから」
「あと、少しで受験なんて信じられないよね」
「だね」

飯沼くんは長話する気なのか、嬉しそうに弾むような声で僕に返事をする。以前だったら、出来るだけ早く切り上げてしまいたいと考えて、適当な相打ちに区切りを刺し、抜け出してしまっていたが、別に今は良いや、という結論に至ってしまった。待ち人はいないし、一人になると最近、考え込んでしまうから、脳味噌を使わない相手と雑談している方が、気がまぎれる。


「そういえば、今年は出場するの、あの、あいつ……」

訊きぬくそうに、けど、興味が詰っているといった、問い掛けを飯沼くんはしてきた。彼がいう、あいつにあたる人物が誰だか安易に想像がつき、嫌気がさし、眉間に皺を寄せてしまった。

「み、充葉くん?」

あ、失敗したと感じても後の祭り。飯沼くんは僕に心配だという眼差しを向けていた。ジルのことになると、表面上を上手く繕えなくなり、苛立つ。

「あ、ごめん、大丈夫だよ。ありがとう……ジル、だよね。判らないけどエントリーは
させておくよ」
「なら、良かった。あいつ、本当にいつも充葉くんの手ばかり焼かせて。嫌になるよ」
「はは、けど別に嫌いじゃないから」
「充葉くんは、すごいね」
「そんなことないよ。それに、ジルが出る競技はジルの意思関係なく、クラス全員が花形競技に出場させたがるから。それを、伝えるのが僕なだけで」
「あの男を説得させられるだけで、凄いから、充葉くん。僕には、無理だよ。喋るのすら畏怖に包まれているし、次第に億劫になっていく」
「僕とジルは所謂、幼馴染だからさ。だからじゃないかな。ほら、小さい頃はみんな、余計な感情を考えないから。純粋に付き合っていて、それの名残があるんだとおもう。それに、ほら、説得して、頷いてもらった所で、当日になって来ないとか、あるわけで……」


まるで自分に言い聞かせているような言葉だった。当日、サボられる時は大抵、母親絡みだ。お前の意思は何もないのかと、尋ねたくなる瞬間。

飯沼くんはそれでも納得したのか、笑みを浮かべて、にやりと笑った。気持ち悪い。男の笑みなんて眺めるものじゃないな、と思った。同級生のは特に。ジルとか、ああいう選ばれてきた人間はまた違うけれど。


「そ、そういえば、充葉くんはどの競技にでるの?」
「僕? そうだな。なんだろう……余ったのかな。多分。長距離とか、あまり誰も出たくないのに、出ると思う」
「ちょ、長距離……かぁ、頑張ってね、応援しているから」
「いやいや、そこは、自分のクラスを応援しようよ」

手首を動かしながら愛想笑いを浮かべ、飯沼くんと雑談を交わす。飯沼くんは何に出るの? と尋ねると、楽そうなやつに出たいなぁ、なんていう、運動が苦手な人間だと判る言葉が返ってきて、面白かった。





「あ、ごめん、充葉くん。長居しちゃって。そろそろ、帰ろうか」
「うん」

あ、まさか、一緒に帰る気なのかなぁと、うんざりしていると、やはり、そのようなので、諦めて、鞄を手に取り、教室を後にする。


下駄箱までの道のりも簡単な雑談を交わしながら、歩いていると、嫌な奴に声をかけられた。



坂本だ。










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