ポーテルライカと田口 | ナノ


挑発された言葉を返すのは愚かなことなんじゃないかな。
例えば「馬鹿」と言われてしまっても、受け流せば、その先にあるものに触れなくて済むだろう。喧嘩して、殴り合って、なにが生まれるっていうのさ。俺は、暴力、ここでいうのは、身体で殴り合うことだけじゃなく、言葉も含まれるんだけど、そんなものに手を出した先にあるものに囚われるのは良くないと思う。
初めて会ったころのお前の笑顔って俺は好きじゃない。
柔和なお面を張りつけたみたいに。縁日で見かける狐のお面にそっくりだ。顔が元々、狐顔だって馬鹿にしているつもりはないから、もし、そう聞こえたなら、ごめん。
誰に対しても優しいものって、恐ろしいだろう。今まで教室の隅っこにいる背景と同じように扱ってきたっていうのに、挨拶を振りまかれたら、怖いだろう。裏があるって、俺は捻くれているから思ってしまう。お前の笑顔は、俺にとって、そう、怖いものだった。いつも何を考えているんだろうって、お前と喋りながら脳髄の空洞で考えていたんだけど、お前は、なにも考えていなかった。お前の視線っていうのは、俺が漫画を見る時みたいに、映像として、俺を捉えていた。だから、ぞっとした。背中から、自分の影法師が蔓のようにあがってきて、骨を針で刺していくみたいに。こいつは初めから俺のことを対等な人間じゃなく、用意されたエンターテイメントとして見てるんだって判ったから。
俺はお前と関わり合いたくなかった。お前のエンターテイメントに組み込まれていきたくなかった。お前の挑発に乗りたくなかった。受け流していきたかった。
けど、同類だって判ると嬉しくて。ほら、俺って、友達いなかったろう。腐男子だし。キモチワルイって何回も言われていたから。嬉しいのと、嬉しくないのとが混じって、俺の中でも、そわそわとして大変だったんだ。
結局、つかまってしまって、お前のこと友達だって俺は信じるようになって。俺と喋っている間にお前も同等まではいかなくても、格下の友達程度には思っていてくれるようになっていたって俺は感じた。足の付け根がもぞもぞする、くすぐったい、嬉しさに包まれたから、お前が背後から鈍器で叩いて、一緒にあがってきた階段から一人突き落とすように俺を無視した時、ショックでたまらなかった。信じてやるものか! って自棄になった。ああ。
けどさ、俺は泣いているお前を見て、たまらなく、こいつのことが好きだなぁって。鈍器で叩かれた時にエンターテイメントだったんだって理解した時の、今まで味わったことのない、悲しさもお前のことが好きだったんだって、判って、また嬉しいのと、悲しいのとで合わさって、感情が支配されていくのが、恋なんだって納得した。
あ、こら、また、泣きそうな顔するなよ。照れるなよ。
こっちが、恥ずかしいだろう
ばか


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