ハイネと桜 | ナノ



息が荒くなる。素肌に直接纏わりつく裏地の気持ち悪い感触が僕の股間を刺激していた。給料日に三万円を叩いて購入したご褒美をこんな風に活用する日がくるなんて、店頭に並んであるAラインのコートを見た時は微塵足りとも想像していなかった。
歩く度に自分がコートの下では下着も身につけずにいることを思い出さされる。下は長いブーツを履いていて、コートの下から覗く絶対領域に目線がいく。駄目にするのを承知でコートを引っ張って、陰茎が見えないようにする。僕は男なのだと、こういう時に強く自覚させられる。身体全体が火照り、体温が急上昇する。寒い冬の空気に触れて僕の肌は赤く染まっていった。擦れ違う通行人が僕のことを珍妙な眼差しで見てくる。疑う目線に、心配する目線、様々なものがある。悪い視線ばかりでないことは判っているのに、自分が見られているということを意識すると、血液が奥の方から沸騰する準備を始めた。熱が足裏から登ってきて、股間を締め上げる。ぎゅうっと。股をくっつけると、更に刺激が与えられることなんて、僕は経験済みのくせに。
千鳥足で駅の改札までたどり着く。鞄から財布を取り出し、切符を購入する。指定された路線にまで乗ることが出来れば、降りる場所なんてどこでも良いので、一番安い値段の切符を適当に買った。
我慢汁が滲みでないよう注意を払いながら、改札をくぐる。時間は落日が始まるころで、帰宅するサラリーマンや学生の姿で賑わっていた。私は一号車が来るホームで一人、風に吹かれながら立っていた。暫く立っていると、四方をサラリーマンに囲まれる。僕はこの人たちが今回の犠牲者なのかと胸の中で湧き出す感情を奥歯で抑えながら、指定された時間帯の電車に乗った。
車内はバリケードが張られたように閑散としており、僕を押し上げるように乗ってきたサラリーマンに手を掴まれる。一時の欲望に身を任せる為に訪れた人々だ。僕の身体で申し訳ないけど、両性器具有という人体に興味がある人達なので、大丈夫かも知れない。三万円のコートにさようならと手を振るように、我慢汁が漏れた陰茎をコートの上から弄られる。

「本当におちんちんがあるんだね」

化粧を施した顔の上から、粘ついた声色が囁く。耳朶を甘噛みされて、気持ち悪さに嘔吐したくなるけど、どこかでハイネくんが見ていてくれるんだと考えるだけで、身体の中枢が歓喜を叫んでいる。
唾液の音が耳を直接犯してくる。一人だけじゃない。七人の不吉な数字を背負って男たちが僕の周りに円を描くように囲っている。コートを脱げば全裸の身体を見せられる。上からボタンを貧相な指先が外していく。如何にも童貞といった指使いは、興奮で眼鏡を曇らせていた。ボタンがすべて取り払われて全裸の身体が姿を現す。本当におまんこの上におちんちんがついているよぉ、と毎回、お決まりの科白を吐き出された。僕みたいな変態な身体は珍しいでしょう。けれど、泣きたくなる羞恥と悲痛が身体の中を蛇のように動き回っていた。
陰茎を持ち上げられる。亀頭部分を指先でつまんで、中に潜む膣を観察しようと男たちは顔を近付ける。一人の男がしゃがみ込んで、僕の膣に直接齧り付いてきた。太い舌を膣内に侵入していく。すでに、愛液を漏らしている僕の身体を味わうように、ずずぅうと液を吸う音が身体を刺激する。男たちは負けずと僕のコートを引っ剥がし、身体全体を触り始めた。一人の男が爪先をしゃぶる。爪の中にまで舌を侵入され、歯で爪をもぎ取られていく。爪をすべて剥がされたことはあるけど、爪を切られたことは初めてだ。中途半端、と内心では思ったが、そんな余裕がなくなるくらい、乳首と陰茎、アナルを攻められた。僅かに膨れ上がった胸を楽しむように、大きな両手で揉まれたあと、歯垢がたまった前歯で乳首を噛まれる。赤ん坊が母乳を飲むような優しい動きじゃない。男が性欲を貪る為だけに行われる授乳に僕の腰は大きく跳ねた。それを見て楽しむように解していないアナルに陰茎を突っこまれる。しっかり慣らさないと血が出てきてしまい、僕の体は激痛に支配される。
電車の音がカーンカーンと鳴る場所で僕は見ず知らずの男たちに犯されているのだという実感が、朦朧とする、痛みの中で判る。過ぎ去る電車。停車するホーム。禁止された一号車のバリケード。けれど、ホームを通過するとき、僕の周囲に群がる男の軍団に目線を投げる思春期の少年の姿が、居た堪れない気持ちにさせられる。そんな目でこっちを見てはいけないよ、と優しく諭してやりたいが、僕の身体は指の一本さえ自由に動かない。
アナルを犯され、ついでに膣にチンコをぶっこまれ、まだ空いている場所があると口の中にも陰茎を差し込まれた。酷い時は鼻の孔に押し込んでくる人間もいるので、今日はまだマシな方だ。
電車が再び動き出し、全員が一巡した頃に、私の双眸は歓喜に輝きを増す。愛している人がバリケードを破って近づいてくる。ハイネくんは楽しそうにナイフを回しながら、口角をあげる。好きな人がいるのに、私の愛している人が眼前にいるのに、助けを求めるふりをして、膣に男の陰茎を受けて喜ぶ僕を見て、ハイネくんは舌打ちをする。その声が好き。私の為に怒ってくれている音が好き。ハイネくんのことが好きで、好きで、好きだからこそ、今から行われる惨劇を前に、僕を犯していたサラリーマンの人たちに今すぐ飛び降りた方が貴方は助かるという助言をしてあげたくなる。好きだからこそ、貴方が人を殺す姿は私の胸をこの世で一番、打ち抜くの。
ナイフを回して、道化師見たいに笑うハイネくんは、彼から見て一番手前にいて、僕の足をずっとしゃぶっていた男の背中にナイフをずしゃり、と差し込む。背骨を剥ぐように引き裂いたので、真っ二つに割れたように男からは血が飛び出た。返り血を浴びたハイネくんは気持ち悪い物を見るようだ。急変した事態に僕を犯していた男たちは飛び跳ねて逃げようとするけれど、僕の孔に自分の陰茎をさしていた皆様方は中々、抜けだすことが出来ない。快楽の孔から抜けだす前に、ハイネくんに殺されてしまう。僕がフェラチオをしていた人は頭を投げられて殺されてしまった。陰茎を吸っていた人は腸を抉り出されて、僕のを舐めていた口を、僅かな生にしがみ付くために残された時間中に唇を剥がされてしまう。アナルに突っ込んでいた人も、膣に陰茎をさしていた人も、皆が、皆、ハイネくんの手によって殺されていく。血を纏って殺し辛くなった筈のナイフでも、ハイネくんはそんなこと関係ない。真っ赤な血だまりの中で、無邪気に笑いながら、彼にとっては真っ黒に染まった手で私を抱きしめる。

「おつかれ桜、帰ろう」

今日の夕飯はシチューが良い。けど桜が辛いなら作らなくても良い。私を隠すかのように、血に染まった貴方は私を抱きしめて、他の男の精液が溜めこまれた膣内に、自身の肉棒を入れる。やっぱりハイネくんのものが一番気持ちが良い。犯されながらハイネくんは動く。電車の扉をあけて、御自慢の身体能力で車内から飛び降りる。私も運動は出来るが、ここまで人間的に離れた行為は出来ない。すっかり空も暗くなって、なにも見えない筈のハイネくんは私を抱えたまま、歩いていく。膣内から肉棒を抜かれて、変わりにキスをされて、お風呂に入ろうといった。


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