002「大丈夫、健太?」 衣服を一切、乱さない紀一が淡々と語る。その口調は心配しているというより、楽しんでいる、愉快だ、というモノが孕まれていて、苛立つ。けど、朦朧として快楽だけを追い求める脳味噌には、しっかりと考える力もなく、口から喘ぎ声だけが漏れる。 「っぅあっ……大丈夫なわけ、ねぇ、ひゃぁああ゛ぁ! だろうがっ」 「だーよね。紀一さんの目から見ても健太のここ、ぐちゃぐちゃだよ」 紀一は悪びれもなく、俺の尿道口に突き刺さったバイブを弄くりながら、喋る。ぐちゅぎゅちゅと、耳障りな音が鼓膜に届いた。 俺は紀一のマンションの一室で、両手をベッドの上で一纏めに拘束され、M字開脚を強制的にさせられた。太股と脛をロープで拘束され、脚の関節が動けなくされる。 久しぶりに訪れた紀一のマンションでこんな罠が待っているなんて、不意打ちも程々にしろよ。セックスに関してだけは、俺の意思や命令より、自分の快楽を優先する野郎だってことを蔑ろにしていた俺が悪いってか。判るか、普通。仮にも恋人の家に来て、油断していた所に待ち構えているなんて。 ジュースを強請り、紀一が持ってくるまでの数分間、ベッドでうたた寝をしていると、拘束され、衣服を脱がされ、媚薬入りローションを使用した後、尿道バイブが突っ込まれるなんて。 「ひっぁあ、もう、やめっろっ――!」 「まだまだ。今日は、射精我慢して欲しいなぁって思ったから、イかせてはあげられないよ」 「いやっ! やめろっていって、ひゃぁっぅうぅあ」 「頭パチパチして良い感じ?」 「んな、わけっあぁぁぁひゃぁあ゛」 「素直になれば良いのにねぇ、健太」 止まらない喘ぎ声が素直の証だっての。 正直、堪らない。 尿道をぐりぐり回され、射精したいのに、射精出来ない。湧き上がる熱が、込み上げてくるのに、尿道バイブに挟まれて、精子がペニスの中で循環する。出口を彷徨っているみたいに。 「アぁ! あぐぁぁぁ、い、あ゛あ、ぁぅア! うぐっ」 ペニスに気を取られていると、後孔に凶器みたいなバイブを突っ込まれた。センスを疑う蛍光オレンジのバイブが俺の後孔にすっぽり入っている。碌に慣らされもしないで、入れられたので、収縮を繰り返す皮膚が引っ張られ、切れそうだ。痛ぇ。こんな、身体にされてしまう前だったら確実に切れていたであろう。 「き、紀一っ――! ひゃぁぐァアアん、ぅあ、ふっ」 「スイッチ今から入れるからねぇ」 「いやっ入れないでっあぁぁっひゃあぐ」 意思を伝えたいのに、尿道バイブが邪魔して上手に喋れねぇ。 「ひゃぁぁぁぁんっ――ぁア、てめぇ、くそ、紀、いちっ」 制止も虚しくバイブのスイッチは容赦なく、押される。 「んっくっあ、ひゃっぅっあっ」 凹凸のあるバイブで尿道バイブのせいで高ぶられ、敏感になった襞を擦りたてて、出ていく。上下の運動が激しく、身体を突きあげられる感覚に陥る。 ずるっと、抜き出されるのではないかと期待するたびに、次の瞬間に訪れる容赦ない突きに身体が痺れる。 「はっ……あぁっぐぁ、くっぅ」 喘ぎ声ばかり上げるのも悔しくて歯を食いしばり、唇を噛むように耐えるが、俺の声が聞こえないことが不満だったのだろう。紀一が俺の口内に指を突っ込んでくる。 「我慢はいけないよ、健太」 「くっア、あっ――ふっぁ、誰がっ」 「せっかく健太とセックスしているのに、聞けないなんて紀一さん悲しいよ」 「っぁっふぁ、だったら、ひゃぁぁっ普通にしやがっれ!」 「だって紀一さんこっちの方が興奮するからしょうがないよ」 「ハッ――うるせ、だまっひゃぁぁああぐァァァンーーー」 結局、喉から引き絞るような悲鳴をあげてしまった。く、糞が。くっ、悔しい。 バイブは好き勝手俺の内壁を犯す。縦横無尽なその動きが俺の脳味噌を溶かしていく。 溶ける、なんて漏らしてしまうと、馬鹿だなぁと舐めた口調で言われるのが見えているので、言わない。セックスの最中の紀一は容赦がない。 普段の覆い隠すような不透明な態度ではなく、静かなる野獣が重たい腰を上げたように、俺を求める。なんだかんだ、言いながら、酷いことされても許してしまうのはそのせいだ。言葉に直したりしないけど。 調子のらせるかよ。 これ以上。 「ひっぁぁ、ひゃぁっ」 「健太、ここが気持ち良いんだね。紀一さんも見ていてとっても良い気持ちだよ」 「ちがっふぁっあ――っあんひゃぁ、っあぅうっぐ」 「おチンチンなんて、吐き出したくて吐きだしたくてしょうがないって顔してるよ」 「っだったら、イかせ、やがっあぁあっ」 真っ赤に充血しているペニスが視界に映る。見たことない位、腫れあがっていて痛々しい姿だ。そのくせ、尿道バイブは健在で、容赦など微塵も感じない動きで俺のペニスを刺激する。 「っふ、う、もう、いい、イかせっろ」 後ろからも前からも絶え間ない刺激を送られ続けて気がどうにかなりそうだ。生理的な涙が双眸から漏れる。初めから尿道バイブに塗布されたローションなのか俺の我慢汁なのか、最早、判別できないくらい、ぐずぐずに溢れ返っている。 後孔からもオレンジ色のバイブが厭らしく踊っているのが見える。じわっと、漏れてしまい、いつもだったら拭うのに、今日は拭えない。 「ヒッあぁぁぁっあぐ、あ、イか、いかせろ、よ!っあぁぁぁぐぁぁ、き、いちっ」 「もうちょっとだけ我慢しようね、健太」 「む、無理ぃぃぃぃあぐぅぅぅあっ」 散々、苛められて性感を伝える神経が剥き出しになったみたいに、どこを触られても感じてしまう。 俺の息の根を止めに来たのかと錯覚するくらい、尿道バイブが激しい回転を咥えながら、一気に出される。襞が広がりを見せたかと思うと、溜まっていた精液が一気に射精される。 「ひゃぁぁぁぁぁぁ、イクぅぅっあぐぁぁっ」 激しい衝撃に肢体が痙攣する。 射精に至り、解放された筈なのに、未だに後孔で動きまくるバイブのせいで自覚できない。それどころか、達したばかりの身体には、酷な話だというのに、情けをかけないバイブは縦横無尽な動きを見せ俺を奔放する。 「いやっ、バイブも抜けっあぁぅ、抜けってぁ」 「えー尿道バイブの方は抜いてあげたのに」 「いいかっあぁぁぁあぐ、ひゃぁぁっあっふっん」 更に俺をかき乱すかのように紀一はバイブの先端を握って、捏ね繰り回す。いい加減にしろよ、糞野郎。目の下寝不足野郎! 「ひっひゃぁあぁぁん、あ、またイく、イくっっ!」 声を張り上げ叫び、あと一歩でイけるという寸前でバイブを後孔から出される。ちゅぷっと濡れ着いた音が聞こえた。 「っ――なに抜いてんだっ」 「二回目も玩具でなんか紀一さん面白くないんだもん、仕方ないじゃない」 「仕方なくねぇ」 「そんなことないよ、だからね」 不敵な表情が双眸に映り、なにを紀一が今からするか透けて見えてしまい、否定を繰り返す。 「やっ待て、まって、紀一っちょッ、おもい、なおせっっ――!」 制止も虚しく、猛りきった紀一のペニスが押し入ってくる。 俺は喉元が切れてしまうかと錯覚する肉声を張り上げ、喘ぐ。尿道バイブで尿道を弄くられ、慣らされず後孔に挿れられたバイブで翻弄され、射精する寸前で打ち止めにされた敏感な身体には強烈すぎる刺激であった。待ち望んでいたはずなのに、俺が支えるべき容量を超えている。 「ひっうぁぁぁぁぁひゃぁぐあぁぁん」 「長い間、玩具入れていたから、健太の内壁、ぐちゃぐちゃだねぇ。紀一さんのが、とろとろで溶けちゃいそうだよ」 「うるっせぁっ、キメェこと言って、うっぐ、ひゃ、ふぁ」 嬉しいよねぇと問われているようで癪に障る。 根元まで埋め込んだものを更に揺するようにして乱暴に突きあげる。 「ひゃっいや、奥っ、あ、あぐぐっぅぅぅ」 堪らず腰を振って喘ぐと、太股を握られ、揺すられる。僅かに角度が変わることによって、抉るような快感が得られ、刺激になる。 「ひゃっあ、きっいち、もう、イクいく、から、イや、イかせっ」 「ふふ、言うこと聞いてあげる」 言うや否や、一層のこと動きを激しくした紀一は腰を動かした。肉と肉がぶつかる激しい衝突音が聞こえる。途中、玩具でいつもより緩くなっているから締めてね、と命令され、誰がやるかてめぇと、感じていたら、乳首を弄られ、無意識のうちに締めてしまい、紀一は達し、俺も達した。 「ふう、スッキリ。健太、良かったね。次は、目隠しプレイとかもしてみたいなぁ」 「寝言は寝てからいえ……セックスなんて、暫くしてやるものか」 「えぇー健太の意地悪」 「誰が、意地悪だ、誰が!」 行為が終わり、拘束されていた身体が解放されたあと、ベッドで横たわる俺へ向かい、頭が馬鹿なのかと疑いたくなる紀一に吐きだす。 「おい、腰、冷やすのもってこい」 「保冷材みたいなの。健太?」 「スポーツ終わったあとに、アイシングとかするだろう。それで、使うやつ。なかったら、買ってこい。十分以内で」 「うん、ないから、紀一さん買いに行くね」 「おー行ってこい、行ってこい」 「それしたら、目隠しプレイも考えてくれる」 「……さっさと行ってこい」 枕を投げつけて部屋から追い出した。 |