花梨と盟 | ナノ





僕は幸せものです。両親は本当のお母さんとお父さんではないけれど、僕にとって大切な両親であることに代わり有りません。僕の両親は二人以外いません。僕を生んで下さったお姉さんともたまに会いますし(僕が多分この人なんだろうなぁと予想しているだけです)僕を生んで下さったお兄さんともたまに会います。お家も裕福なので、教育も身に余るほど丁寧に受けさせていただきました。お陰で知識を蓄えることが出来ました。
お父さんの教育で世の中に根っこから悪い人がいることも知っています。その人達に僕はいかに弱い人間であるかということも。
けれど、もし誰かが傷付いたりするくらいだったら、僕が身代わりになって、悪い人もしがらみから解放してあげたいです。
おこがましいでしょうか。お父さんは「そんなことして、残された私たちのことを考えなさい」と叱るでしょうか。
以前、喜んでパシリという行為をしていた時も、いじめを受けた時も、公園で殴りかかってくる人と向き合いながら笑っていて殴られたときも、お母さんは泣いていました。僕は泣いて欲しくないから体操服で帰ったりしたんですが、お母さんは怒っていました。顔以外を殴ってもらうようになったら、お母さんが悲しい顔をやめて、僕を殴っていた人たちも良いストレス発散ができたみたいです。
誰も悲しまずになったみたいです。傷が治るまでの数日間はひやひやしました。「止めなさい」といわれても、止めることが出来ません。でなければ、僕という人間はいったいどんな意味を受けて存在する許可を下さったのでしょうか。幸せを与えられたのでしょうか。





最近は友達も出来ました。僕を利用したいだけの筈なのに、優しくして下さって僕にはもったいないお友達です。皆さん、不器用で己の葛藤と戦いながら日々を生きていらっしゃいます。僕はそれが、きらきら光ってみえて、こんなに輝いている人たちの側に例え目的がどうであれ近くにいれることを幸福に思わないわけがありません。
そして僕には恋人がいます。僕のことを好きでもなく、愛しているわけでもない恋人です。彼の優しさに僕が甘えているという状態にあります。彼は優しさと永続的な幸せを求めている人です。きっとご両親を安心させたいんだと思います。それか夜くんより幸せになりたいのか、僕はどちらかだと思っています。彼はその為に僕が必要らしいですが、きっと間違いなのでしょう。幸せというのは本当に彼が愛している人との間にしか生まれないものです。
ですから僕は彼を幸せにする権利を持ち合わせていません。彼は僕を愛していないのですから。しょうがない話です。それなのに、仮初めの相手に僕なんかを選んで下さって、優しい御方なんです。僕がいる位置なんて、誰でも良かったはずなのに。



誰かのために傷付くのを止めなさい、とお父さんがいうなら、せめて最後に僕は彼のために役に立って死んでいきたいです。彼の肩にかかった重みをとっ払い、僕という小さな愛をあげたいんです。おこがましいですね。やっぱり。僕ごときが、なにができるんだって感じですね。
我が儘なんだと思います。これは僕の。
人生で一番おおきな我が儘です。



彼が好きです。愛しているという気持ちを抱くのは、この先、彼しかいないでしょう。
愛というのはなんて利己的なものなんでしょうか。彼を思うたびに気づきます。
彼を愛していて、それで満足なはずなのに、例えば彼が誰かとキスをしている光景とか、女の人と腕をくんでホテル街に消えていくところとかを見ると、胸が締め付けられて気付いたら泣いているんです。骨が喋るたびに折れていくみたいに。
彼はなにも悪くないのに、悲しみを抱いてしまうなんて。僕のこころは随分、我が儘に出来ています。
いつか彼が本当に好きな人を見つけて、僕はそれを見て、上手に笑える自信がありません。僕はもし彼が祝福して欲しいなんて言って下さっても、表面上の渇いた言葉しかでずに、彼が去ったあとで、一人泣くのでしょう。なんて、いやな奴なんでしょうか。僕にいったいどんな資格があるというのでしょうか。
彼が幸せなら僕も幸せなのに。ああ、なんて醜いんでしょう。
きっと彼に対する気持ちだけが、幸せになって欲しい、だけでは片付かず、幸せになる手助けをするのが僕であり光栄でもなく、幸せにするのは僕が良いという身の程知らずな感情が混じっているのでしょう。
そのために、僕は早く消えなくては、と思います。自分の利己的な愛を彼に押し付けないうちに。
僕は本当になんていやな人間なんでしょうか。

ごめんね、花梨くん。
消えるときは、ちゃんと上手に消えるから、今だけは側にいることを許して下さい。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -