目の前に置かれた衣装を見て絶句した。これはかの有名な『カードキャプターさくら』の衣装じゃない。
馬鹿! 私は自分で露出度が高いコスプレはしないって決めてるのに! なによ、この服、ティガの奴ったらいったい何を考えてこんなの私の眼の前に置いたんだろう。
フリルがたくさんついた服。それなのに、胸元が大きく空いている。
一見、ピンクのウェディングドレスのような印象を受けるのも鼻に掛かる。コスプレらしいチームな見た目が、逆にエロいという偏見を私に持たせてしまう。
これは12巻の衣装だから、下は勝手にティガが創作させたのだろう(衣装をティガが作ったとは思えない。オリジナル製品だが、既製品と同じクリオリティの匂いがする)下半身はパンツを思いっきり見せるのが売りだ。真ん中から裂けているんだけど……判り易く言うと水着のビキニ(下半身だけ)を着用して、スカートをサイドに巻いているといえば近いかも知れない。どちらにせよ、常識から逸脱した作りだ。
まぁ、その、セックスをする目的で作られたものだし、私しか穿かないのだから良いんだけど。ティガにしか見せないし、良いのよ。
事の始まりは二人でマリオカートをしていた時のことだ。
腐女子と言ってもゲームが強いとは限らない。ゲームが好きだと言ってもゲームが強いとは限らない。
要するに、私は弱いのだ。
ティガと二人でやっていたのだけれど、どのステージでも私が負け。
何回か、コンピュータープレイヤーも加えて対戦したけど、やっぱり私が最下位。
負けず嫌いな私は自慢そうにこちらを見るティガの鼻を折ってやりたくなって、賭けを申し出たのだ。
心底、嫌なものが賭けの対象だと、頑張る気が起きるのではないか! そんな淡い期待を抱いた。
因みにティガは今のままで良い勝負になると判っていなかったのだろう。珍しくハンデをくれた。私が出発して2分後に出発してくれるというのだ。私は喜んで、それに賛同して、ゲームは始まった。
結果、口にするまでもなく、私の惨敗だった。
今、思い出してみればティガは確信があったに違いない。私に勝てるという。お前はデスノートの夜神ライトかぁぁぁ! と良くネタで使われる「確信あり、ニヤリ」の顔を思い出してしまい、余計に腹が立ってくる。
完璧なる八つ当たりで、自業自得なんだけど。負けているときは、素直に負けていると例えゲームであろうと認めることが大切だと学んだ。もっと前に学んでいれば現状は回避できたはずなのに。不甲斐無いわ。春子!




「なんだよ、まだ着てねぇの?」

お風呂から上がってきて、にやにやした顔のティガが微笑む。なによ、私は今から着ようと思っていた所よ! あまりこっち見ないでくれる。

「まだですけど」
「お前、負けた癖に態度でかいな」
「放っておいて! もう! とりあえず、着替えるんだから後ろ向いておいてよ!」
「別にいいだろう」
「ちゃ、着衣エロの醍醐味を失うわよ」

博打をうってみたけど、ティガは意外と納得したみたいで「そりゃそうだな」と首をおろし、大人しくソファーに座ってテレビを見始めた。
納得されたら、それは、それで、着替えにくいもので、私も我儘過ぎるなぁと、自分の甘えを再自覚しながらティガの要望である「コスプレエッチ」の準備に入る為に服を着ていく。
コスプレの服って着にくいんだよね。有り得ない所にチェックがあったり、着心地を重視しないから、蒸れたり。蒸れる……心配はないかも。安っぽい仕上がりだけど、木地は良いものだわ、この服。
及び腰で、ブランドのタグを捲りあげるけど、驚愕の名前が刻みこまれてあったので、見なかったことにする。この服にティガが少なくとも300万円以上はかけていることが判明しただけだ。後で、叱っておこう。そして、もっと安い服が見つかる所を教えてあげよう。
最後はパンツを穿いて終了なんだけど。このパンツ……開いていちゃいけない所に穴がある。どうして、そんな野暮なことを聞くほど、純情乙女ではない。はぁと、観念しながら穿く。これがBLだったらとっても萌えな展開なんだけどな。どうして、自分になると、萌えもしないし、羞恥だけが残って、侘しさに似たようなものがふと湧き出してしまうのか。


「ティ、ティガ準備できたけど」

しょうがなくパンツを穿き、ティガの前に立つ。胸も隠したいけど、パンツも隠したいから無意識の間に手が胸元を覆い、上の服を伸ばしている。

「おお、可愛いじゃん。手は邪魔だけど、恥ずかしがってるのも、良いと思うぜ、春子」
「は、はいはい、そりゃぁ、良かったわね」
「照れてる、照れてる」

ティガはこっちの気も知らないで軽口をたたきながら私の腕をつかむ。
気付いたらいつものようにベッドに運ばれていて、私はあんたの顔も見れやしない。
もう! 
馬鹿! 
だ、だいすき……






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