02







中学に上がったばかりの出来事だ。
オレと充葉は日常的に共に居ることもなくなり、オレが充葉に語る「報告」の時間だけ共に居た。ふふ、ねぇ充葉ぁ。あの頃、充葉は、とても悔しそうな顔をしていたねぇ。嘆息を吐露するふりをして、双眸には自尊心と戦っていた。高慢な優越感、晒され数値化される天賦の才。充葉はそれを全部、オレに感じていた。離れたい筈なのに、死ぬなとオレに告げてみたり、報告を律義に清聴する。感情を剥き出しにする。興奮し、脈打つ血流。充葉ぁ、さすがだよ。
ああ、だから、なのか
女と性交し、勃起しない陰茎を見た後で、充葉に会いに行ったのは。

思春期になり馬鹿な愚能な雌豚達はオレを誘った。
父親似の造形は受けが良く、雌豚達はオレの両手をぐ勢いで、搾取しようとした。下品な胸を晒し、穴を高く突き上げ、吐き気を誘引する、ヴァギナを見せればオレが吊れると思ったのか! 愚かな。
艶やかに彩られたグロスを舐めながら、女は身体を開く。睦言を述べる。
女は、オレに、ジルくんってどうして化粧してるのカッコイイけど、と告げる。
なぜ、雌豚に口を開き、説明してやる義理があるのだ。これだから、自己の存在価値を過大評価する人間は無知なのだ。表面しか見ない頑愚な連中だ。排除、排除、削除、デリート。不要、塵屑。雌豚どもは揃いも揃って、息をするのを止めた。
この顔は母さんに捧げられる供物でしかないのに。見抜けず、無知を曝け出し、酔う 便器はいらない。


ああ、これも、充葉は異なった。充葉は、オレの顔を見ると顔を歪める。穢れていると告白されているようだ。
似てないよ、ネルソンさんとは。
書籍に目を通しながら父親の名前を吐きだし、否定する充葉。紙を捲る指は、美しくない。荒れ果てた肌も、切るのを怠った爪先も。それなのに、充葉はオレに告げる。自身の意義を吐き捨てるように。オレの存在意義を否定する。健気に献身に母さんの為につくす、象徴を否定し、平然とした顔つきで本を読んでいる。嘘つきな充葉。けれど、嘘ではない。本音がオレを斬る。オレ乾いた笑い声で舌足らずに充葉の名前を呼ぶと恍惚に浸る様な笑みを漏らす。ああ、射精してしまいそうだよ。
気の迷いかと打ち消した。
だって、そうでしょぅ。

無理、無理。愛情は存在しないのだから。充葉は共犯者、幼馴染、近くに居る人。それだけ。大事、唯一、けど、恋愛と結び付けるには、あまりにも陳腐で安直だ。
だから、ねぇ、だからこそ、オレは母さんにならば、この溜まる熱をぶつけられると予測した。
オレがオレを捧げる人間だ。彼女が笑うと満たされる錯覚が起る。安堵する。意義を得る。意義を捨てる。なので、実行したまでの話。
陰茎を握り、熱を包む。傀儡のように淫乱な売女のように腰を振る。いつかの雌豚どもよりは清らかであるが、性的興奮が満たされる気配はない。それどころか、嘔吐してしまったではないか! 爪も髪も唾液も、オレは母さんに分け与えられたというのに。
類比した遺伝子で構成された人間であっても、無駄だというのか。勃起不全なのは、神から与えられた天罰だとでも言うのか。納得しよう。健気に生きてきたが、望まれなかった子どもというのは、子孫を残すことは不可能だということだろう。
別にいいさ。
オレが子を孕ませずとも、屑な人間は繁栄する。死ね。元来、要らぬものだ。体液だけが付着した指を布団で拭う。瞼を閉じれば息をするのを忘れていないものかと思慮しながら、寝転び、結局、呼吸をする。惨めだ。
けど、けど、ねぇ
充葉には通用しなかったんだよ。神にまで否定された生きていることの意味を。

斜陽が降り注ぐ教室の一角で、充葉は寝息を立てていた。眼鏡が低い鼻からずり落ち、美しさは微塵も感じられない。疲労を抱えた顔をしており、油断しきっている。肌に触れると乾燥しており醜い。口許からはみ出る涎は、普段なら嘔吐するレベルだが、興奮さえ覚えた。
だから、手を出した。
触れると反応し、性欲処理に打って付けだった。自分が勃起不全ではないと知り、安堵した。
充葉、充葉、充葉。
否定し、泣き叫ぶ滑稽な充葉の姿さえ、興奮の材料だった。充葉という存在は神がオレに与えた玩具のように錯覚した。充葉、充葉、充葉。なんて、便利な生き物なんだろう。お前が与える快楽がオレを満たす。
射精した。
充葉の中に欲望を吐きだし、焦燥とし、背後からオレを暴虐しようとしていた、自分を認識する。

セックスって気持ち良いねぇ、と意識を消滅させた充葉に囁く。反応なんて、勿論、ないけれど。乾いた白濁に触れぬように、キスを落すと、制服だけを被せて、教室を後にする。至福に包まれ、溺れ、溺死する瞬間。本当に、便利だねぇ、充葉。充葉も、嫌いじゃなかったでしょう。大丈夫、オレは充葉が欲しい台詞、ぜんぶ、ぜんぶ言ってあげるから、ふふふ。充葉がオレに言って欲しい台詞、知っているんだから。与えてあげる。逃がしたくないから。







「ねぇ、充葉、大好きだよ。だから、ねぇ、セックスしよう」



簡単。









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