林檎の籠を買ってきたのはオズだった。黒いリボンが籠に巻き付けられ、最大の嫌味だと嘲笑う。オズは僕の意見なんて聞きやしない。
君が良いことは俺がしても良いし、君が嫌なことは俺がするのも、君がするのも駄目だ。
なんて、こんな言葉を投げ掛けてくるのに、僕が本当に叶えて欲しい願いを告げると、この男は簡単に僕を捨てるのだろうと予想がつく。
詮索は嫌い。
この線からは入ってこないでね。
僕はどんよりと浮かぶ絶望感のなかから、過去の自分を思い出す。アレックスに胸ぐらを掴まえられるまでの自分だ。意固地になって、一人を好んで、脅えてばかりいる。いつ、暴かれないかってさ。プライドで自分を保つ。自分はなんでも出来るだろうって自信満々に。
本当はそんなことないくせに。
だから、オズはもしかしたら、強制的に足を踏み込んで、世界を一瞬でも奪って欲しいんじゃないかって、稀に思う。
僕にはそれをする勇気も度胸もないのさ。残念なことにね。

アレックスは怖くなかったのだろうか。
愚問だな。
アレックスが怖じ気付くわけがない。彼は生まれながらにして王の風格を兼ね備えた人間なのだから。強引な行為を当然と受け止め、受け止めらるなかった人間を阿呆だと見下すだけだ。僕には到底、無理なこと。
けど、今のままの僕たちに待っているのは、離別しかないだろう。ちょうど良い距離感でずっと一緒にいましょう、なんて、内緒にしていた部分を披露すると崩壊してしまう関係だ。思い出すよ、実家の、両親と呼べるかどうかすら判らない彼らとの空気を。線を引いて、干渉せず、見えない化け物に怯える滑稽さ。
どうして気付いてくれないんだろう。僕たちがしているのは人形劇を演じているに過ぎないって。


林檎の籠を買ってきたのはオズだった。黒いリボンが籠に巻き付けられ、最大の嫌味だと嘲笑う。
嘘。
林檎の籠なんて彼は持ってこない。だって知ろうとしないんだから。詮索するのは駄目なことらしいから。僕を必要以上に傷付けないんじゃない。僕を必要以上に喜ばせないだけさ。



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