アレックス・アレキサンドラーは窮屈な現状に溜息を吐きだした。指を動かすとホテルの給仕が紅茶を持ってきて、差し出す。目の前にいる貧相でみすぼらしい乞食のような少年は紅茶を出来るだけ優雅に見えるよう飲み干しているが、アレックスの目には、醜い姿の少年が無理をしているようにしか映らない。
残念なことにこれが自分の婚約者だというのだから。アレックスは溜息を再び吐き出す。そのたびに少年の肩が揺れた。
断るつもりはない。メリー・ルイスルピーやティガ・ポールのように。日本の猿を捕まえて、婚約者にするという滑稽な行為をするつもりもない。婚約者など後継者を生む、入れ物に過ぎないのだ。適当に済ませて、自分を追ってきたというこの、阿呆な少年を追い返せばいい。
しかし、この顔色の悪さで本当に子どもなど生むことが出来るのだろうか。血の優先順位を考えれば、この少年以上に適正な人間はいないと総合的に言えるが、丈夫な入れ物でない、子を産む製造機など不要な存在だ。
今まで、手紙だけの遣り取りで写真という資料でしか顔を見た覚えがないので、このような青ざめた顔色をしていると、アレックスは知らなかった。これは、臭い香りが鼻孔を過る。
詳しく調べさせてみないと分からないが、この少年の体が脆弱だということを分家である分際で隠していた可能性が非常に高い。


舐められたものだ、とアレックスは紅茶を飲む。
別にこの少年家を婚約者として宛がわなくて良いのだ。五大貴族の婚約者になるということは、ほかにも候補が何人かいて、後釜を狙っているということを忘れてはならない。
なんなら、今、ここで、切ってやろうか。
状況証拠しかないが、そんなものあとから揃えればいい。理由があれば、家は首を縦に振らざる負えない。まぁ、そんなこと、しないが。
感情だけで動くのは大馬鹿者のすることだ。だから、春子はこころと婚約を結んだ、友人たちをアレックスは心の底では理解しがたい阿呆な人間だと鼻で笑っていた。今そのせいで、尻拭いをしている。
そもそも、利益と損害を釣り合わせて、自分が五大貴族という名前と誇りを背負ってきたのだが、そのせいで、自分の家にどれだけのものが降り注ぐか考えた後で行動すべきだ。
実家に損害が下るような阿呆な真似はしないというのが、アレックスがはしゃぐときにある信条の一つだった。だから、眼前にいる少年と婚約破棄も行わない。なぜなら、状況証拠だけで判断すると、後々、面倒なことが多く、実家に損害が下る可能性があるからだ。


「よく来たな」
「は、はぁい!」
「まぁ、来ちまったもんは、帰れとは言わねぇけど。俺はお前を構うなんてことはしねぇから、勝手に過ごして、勝手に帰れ。俺は、お前のこと、タイプじゃないだから。その、間抜けな顔を押し込めておけ」


ぺらぺらと、口を動かし、眼前の少年が傷つくであろう言葉を簡単に述べる。別に迷う必要はない。心なんてものは、いくら傷つけても、現実に問題ない。誤魔化せるものだ。
この顔はいくら見ても退屈で、黒の双眸が吸い込まれそうでつぶしてやりたくなった。





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