001「ねぇ、いいと思うんだ健太、ローターも」 「ふざけるな!」 「えー紀一さんがこんなにおススメしてるのに」 「うぜぇ」 米神に皺が出来る。さっきから、俺の目の前でクッションを抱きながら、耳を疑う台詞を吐いているのは、一応、繰り返すけど、一応、俺の恋人である。クッションは自前だ。俺の部屋に置いてあったのじゃねぇ。 交際歴は一年と少し。まぁ、俺とこいつ、木野紀一は所謂、腐れ縁という奴で長年連れ添ってきたから、今更、恋人と言われても違和感があるけど。パシリで充分だ。このゲイが。あ、けど、俺もゲイなわけか。今は。 色々あって、腐れ縁から、恋人同士になったのだが、稀に、予想外の範疇の言葉を俺に投げかけてくる。よう、変態。 「ええ、いいじゃない。紀一さんの一生のお願いだよ」 「お前の一生のお願いは一体、何回、あるんだよ!」 「健太のケチ」 「ケチじゃねぇ。つーか、言いながらローター鞄の中から出してくるなよ!」 自然な身体の運びで鞄の中から卵型のローターを取りだした。常備しているのかと疑いたくなるくらい、紀一の鞄の中からはアダルトグッズが山のように出てくる。一体、どこで買ってるんだと、その整った顔に訊きたくなる。訊いた先に待っているのが「じゃあ、一緒に行こうよ健太」だから、言ってやらねぇけど。 「お願い、健太」 「っやめっ」 喋りながら俺へと接近した紀一は人より少しだけ長い舌を駆使して、俺の耳朶を舐める。ねっとりとした唾液が音を立てながら響く。歯で甘噛されて、声が漏れる。 「止めろ!」 「ふふ、紀一さんの、気持ち良いでしょう?」 「止めろって!」 「ローター使わせてくれるなら、止めてもいいよ」 「っ――ぁ、くっ、あ、判ったから!」 「はは、さすが健太! 紀一さんは、とても嬉しいよ」 笑みを崩さず紀一は喋る。むかつく。耳で射精させられたくないからしょうがなく、承諾したけど。苛立ちしか残らねぇ。嬉しさに身を任せて俺にキスまでしてくるし。汚い唇を俺の唇に被せるな。 紀一の舌がにゅるり、と侵入してきたので、噛み切る勢いで抵抗したら抜かれた。息が荒くなって、経験の差を見せつけられる。こいつの余裕そうな顔つきは昔から苛立ちしか俺に与えない気がしてきた。 「けど、条件がある」 「え? なに、健太? 紀一さん健太の条件だったらなんだって飲むよ」 「ハッ」 寸前のところで飲まない癖に都合のいい台詞。鼻で笑ってやったけど、俺の股間に顔乗せて笑う紀一の笑みは崩れねぇ。顔、乗せるなよ、股間に。半勃ちなのバレる。 「紀一」 「なに、なになに健太ぁ」 「俺の、足の指、舐めて綺麗にしろ。土下座みたいに、頭、下げながら。それから、俺にその頭、踏ませろ」 宣言すると一瞬、顔を固めた紀一だが、直ぐに理解したようで、笑みを浮かべると、俺の脚を撫でるように触れながら下がっていき、素足を掴むと、舌で親指を舐め始めた。唾液の音が部屋に響き渡る。俺、手の指先とか耳朶とかは性感帯で無駄に気持ち良いんだけど、足の指先はまったく感じないから、気分いい。紀一より、俺の方が上に君臨している気持ちになれる。支配欲っていうの。はは、随分、単純に満たされているねぇ、俺。普段から基本的に俺の意思が優遇されるけど、肝心の所で手綱握っているのは紀一の野郎だから。判りやすい、順応な証が瞳に映ると、満たされる。 なんて、こと考えて気を抜いていたのが、悪かったのか。俺の足を舐めていた筈の紀一は知らない間に舐めるのを止め、ズボンのチャックを下ろし始めた。 「止めろ、紀一。俺、まだ踏んでねぇ」 「もう、止められないから、駄目だよ健太。紀一さんのスイッチ入っちゃった」 誰の指図も受けられないという表情を俺に見せた健太は、ズボンをいとも簡単に脱がすと、部屋の壁に投げつける。乱雑な扱い。部屋着だから別に良いけど。隣人は出かけている時間だし。 「紀一てめぇ、覚えていろよ」 「聞こえないよ、紀一さんには」 押し倒され、紀一が抱きかかえていたと思われるクッションに頭を押し付けられる。低反撥だけど、俺はあまり好きではない。 「都合のよい耳だなって、おい、そこ、ひっ!」 「いただきます」 掛け声とともに、晒された股間に紀一はしゃぶりつく。ペニスに吸いつくように舌を動かされる。絡み付いてきて、俺のペニスを全部口内へと含むと上下させた。歯が無くなったかと疑いたくなるくらい、滑らかの動きで女のマンコより上等かも知れない。俺、女、知らないけど。AVの中でしか。童貞卒業する前に紀一に処女奪われちまったから。虚しい。 なんだこれ。苛立つ。俺も童貞卒業してぇ! 「っ――く、ぐ、あ、ち、ちくしょ」 「イっても良いよ」 「ひっ、あ、誰がイくか!」 「可愛いねぇ。じゃあ」 紀一は例の鞄を手繰り寄せると、中からローションを取りだした。滑りがある乳白色の液体が中から飛び出す。掌にぶちまけられたローションを親指で擦る。まるで滑り具合を確認しているかのようだ。新しいメーカーか。いくつ、試せば気が済むんだよ。どれも一緒だろうが。 「あ……ふぁん、やめ、やめ、ろ」 「駄目だよ。紀一さん、止めてあげなーい」 ローションで濡れた手で尻を揉むと、手がゆっくりと蕾の周りを撫でる。 「まず、一本ね」 さらりと告げると、収縮を繰り返す蕾に突く様に触れた後、勢いを付けるように指を一本、ツプンと後孔に入り込む。如何にも男の手だと判る紀一の角ばった指が、あたる。 「ぅっ……あ、ぐ、」 「だいぶ、柔らかくなったよね。健太のココ」 「ひゃぁ! ぐ、あってめぇ、掻き回すな!」 「掻き回さなきゃ、解れないよー」 「あっぅっひゃ、あ!」 「あは、一本でも前立腺触れちゃって感じちゃったんだ、健太」 「う、うるせぇ!」 抵抗心で叫ぶとともに二本目が入り込み、前立腺を挟む。俺、それ嫌なんだって。直ぐにイくから。 「ひってめぇ、あ、あぐひゃぁ、っぅ、ぐっあっ、やだ」 「嫌は良いの裏返しだよ健太」 「あっひゃぁっあ、イクッ、嫌だ、糞野郎が、屑が……離しやが、ひゃぁっあああぁぁん!」 前立腺を挟むように出し入れする、紀一。感じるポイントを抑えられると頭白くなりそうになる。脚が上がり、痙攣する。達してしまい、イク時に、紀一に縋りつくような体勢にどうしてもなってしまい、悔しい。 しかも俺が射精した反動で、意識が浮いているのを良いことに、紀一の野郎ときたら。 「本日のメインイベントだよ健太。紀一さん、楽しみだなぁ」 ローションぶちまけたローターを俺の後孔に突っ込みやがった。無機質の紀一ではないものが俺の中に侵入してくる。収縮する動きが中に入ることを拒絶しようと動くが通用しない。寧ろ、ローターの形を身体で感じてしまい、不愉快極まりなかった。 「楽しいのは、これからだよ、健太」 「あ! てめぇ、それ、付けてみろよ」 「健太が淫らに喘ぐ姿が紀一さんは見たいんだなぁ」 容赦なくローターのスイッチを押す。 「あっあっひゃぁあ゛あ゛ぁぁぁぁぐあ、ひゃぁん!」 たかがローターなのに、紀一の指によって誘導され、俺が一番感じる所に当てられたせいで、無駄に感じてしまう。頭の上で星屑が飛び交うようだ。目がチカチカして、可笑しくなる。小刻みな振動が徐々にあがり、人間では不可能な動きを見せる。紀一がボタンを弄くっているのだろう。 「ひっぅっ……あ、ひゃぐ」 「可愛いね、健太。紀一さんのも勃起しちゃったよ」 「っひゃぁっぅっ……あ、あぐ、し、しるかよ」 「慰めて貰わないといけないから、紀一さんのコレ」 「や、いぇ、てめぇっあ、あっぅぐ、ひ」 慰めてたまるか!暴言を吐きだしたいけど喘ぎ声で遮られてしまう。ローターの震えは止まらない。紀一の横暴な行為を止めさせたいが、足を肩に乗せられ、紀一のペニスを後孔に押し当てられる。 「ひっあ! やめろ、いやだって! あ、あぐひゃぁ」 「大丈夫だからねぇ、紀一さんと一緒に気持ち良くなろうよ」 「っぅ、あ、ひゃぁぁぁぁぁああああああ゛ぁぁぁあ゛!」 ローターや指でだけじゃ、行けなかった奥へ、紀一のペニスが侵入することで、突き進んでいく。前立腺を抉るように、ローターの鼓動が振動する。ぐぷぐぷと嫌な音が、紀一がペニスを出し入れする度に起こる。 「あ、いや、ひゃぁああああぐぅぅぅぅぅ、なに、これ、こんなの、いやっやめ、やがひゃぁぁぁぁ!」 「気持ち良いでしょう、健太」 「いや、嫌だぁぅぅぅあ゛ぐ、ひゃぁぁぁああっ!!」 尖った紀一のペニスがまるで凶器のように俺の視界に映る。太くて、熱くて中がいっぱいになる。加えてローターの振動が俺の意識を奪う。 「イク、イク、イクから紀一ぃぃぃうあひゃぁぁぁん、ああぁぁぁぁ!」 「イってる最中の健太の中、凄く良いよ。けど、紀一さんはもうちょっと楽しませてね」 達している最中だというのに、紀一は腰を回転させて、俺をうつ伏せにさせる。腰を両手でがっちり掴むと、尻に打ち付けるような動きを始めた。パンッパンッと肉と肉がぶつかる音がする。二回目の射精だっていうのに、動かされて熱が収まらない。痛いのか悦いのか判らないのに、快楽が襲い掛かる感覚だけは理解できる。 「ひゃぁぁぁんっああぐあああぁ、き、きいぢ、てめ」 「っ――良いよぉ、健太」 「はっあぁっあ、うごくっなぁぁっあ」 敏感になり張り詰めた肌に紀一の指が食い込む。力が篭って、それが、気持ち良い。もうすぐ、こいつが達することが判る。 「あぁあひゃぁぁぁぁあ、ぐひゃぁ」 「っ――」 ブチュブチュブチュ 精液が発射される。中が紀一の精液によって犯されていく感覚がする。嫌いじゃない。絶対に言ってやらねぇけど。 「っぅぅぅあ」 ひゅるんと音を立てて、紀一が出て行ったのは良いけど、中で動くローターは止まらない。微妙な鼓動を俺に与えてくる。 「紀一っ止めろ、よ」 「もう一度、健太がイったらね」 重ねがさね、ふざけたこと、平気で口にする野郎だ。 イラついたし、身体も限界なので、足で顔を蹴る。あ、目的達成じゃねぇか。納得できない形だけど。 |