機械音声が耳に蔓延る日々。履歴から着信歴を繰り返し押して、電話をかけるけど、繋がるのはいつだって無機質な声。
可笑しいなぁって思って台所まで足を伸ばすとハイネくんがいつも寝ている机の下に携帯電話は放置されるように置かれてある。僕は溜息を吐き出して、自分の携帯電話を切り、彼の携帯に残った履歴を削除。
今日も貴方はいったい、どこにいるんですか? って不安と憂鬱に押しつぶされそうな日から脱却した変わりに、今日もどこかで彼が自分以外の血肉を引き裂いて笑っているのだと考えると、腸から腐敗物が飛び出しそうだ。
ハイネくんは僕に向かい、自分がないと言った。
ハイネくんの前だと、否定できないくらい、僕は自分を持たない。主体性のない人間だ。彼がそちらの方が好ましいというのなら、心の底から僕は、そういう人間に慣れる。
例えば、痛いのが嫌いになった。僕は今はすっかり痛いのは嫌いだ。性的快楽を引き起こされない。殴られたら普通に脅えながら泣いてしまうし、酷い時は恐怖で嘔吐さえしてしまう。
以前はあんなに気持ちよかったのに、過去の自分を疑ってしまう。
昔から自分という人間は本当に中途半端で、中身がない空っぽの人間だと知っていたけど、ああ、現実なんだなぁってハイネくんと接していると思う。
けど、ハイネくんは、僕を少し勘違いしている。中身がないのは本当で、ハイネくんの前だと、自分なんて存在は霧のように消し去ってしまうけど、根本的に僕という人間の世間一般的に嫌だとされる部分がまるで変わっていないということに。貴方を手に入れる為ならなんだってする。
早く妊娠して縛り付けて必要とあれば子どもだって貴方の手で殺させてあげたい! 愛する人間を殺せないというのなら、その子を利用して最大限の愛情を欲しい! 子供に関する不安があるというのなら、ハイネくんが僕よりその子を愛してしまう可能性なんだけど、きっとそれはないって信じている。
シンデレラじゃないんだから。鏡よ、鏡よ、鏡さん、世界で一番、彼に愛されているのは僕ですよね。だって、こんなに頑張っているんだから。僕以外の人を彼が一番に添えるなんて、もう、ないですよね。って言い聞かせる。
初くんから僕に乗り換え乗車した彼の気持ちなんてこれっぽっちも信じられないけど。
いいなぁ。まぁ、それいえば、僕だってスオウくんから彼に乗り換え乗車したんだけどさ。
彼が向ける感情を全部、僕に向ける良い方法がないんだろうか、と頭が足らない自分自身の中で考える。
この携帯を真っ二つに圧し折って台所の机に放置しておけばさすがに彼も焦ってくれるだろうか。
貴方の前じゃ口が裂けても言わないけど、今でも僕は貴方に殺して欲しい。死ぬときは連れて行って欲しい。
貴方が他の肉塊を玩んでいるかと考えるだけで、隠していた男の筋肉が物体をぐにゃりと歪める。いいなぁ、羨ましいなぁ。
憎たらしいなぁ。
この携帯、こんなものがあるから、不安も苛立ちも増えるんだな。
今日は置いていったから(忘れただけだと思うけど)機械音声で、持っていくときは、ハイネくんの僕を不必要だという声。掛けてくるなよ、という。低くて小さい細切れの肉声。
ああ、どうしよう。本当に壊したくなってきた。
けど、そんなことしない。もし、壊すとしても、毒でどろどろに融解さすように、しないと。貴方が一番傷つき僕のことを一番に考えてくれる方法で。




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