変わらない人が好きなんスよね。
ああ、変わらないって別に悪い意味で使っているつもりはありませんよ。俺は、変わらない芯の強さを持った人が好きって言っただけス。
汐さんは幼いころから早熟していて、周囲を見渡す目に優れていた人でした。良い意味でも、悪い意味でも、自分が他の人間とは違う存在だということが、彼女の心を圧迫感を与え、成長を促進させたんですね。
俺が昔から惚れている変わらない、背骨がすっと通った真直ぐに立った横顔が、今でも俺の横に居るスよ。
ああ、さっき、周囲を見渡す目が優れていると言っても、それは彼女の大切な人限定で発揮される洞察力です。
それ以外の人間に対して彼女は驚くくらい無気力で、小学生のころ、俺の友達の友達が彼女に告白して「あんた誰、なに好きって」とか言って玉砕してましたから。内心、俺はけらけら笑いながら(と、いうか、馬鹿みたいに安堵していたスけどね)友達の友達の肩を抱きしめたス。汐さん「あんた誰」って汐さんその子と縦割り班一緒じゃないスか。
まぁ、こんな風に彼女は興味対象以外の人間は視界に入ってこないくらい、どうでも良い存在なんです。
俺が思うにそれは、彼女が抱えられる数はそんなに多くないからですね。
だって、普通、区切るじゃないですか。俺は人が良いとか良く言われますけど、人間をきちんと区別していますよ。
一番大事な人、二番目に大事な人、三番目に大事な人、親、兄弟、幼馴染、親友、友人、教師、友達の友達、他人、みたいな感じで。
最後になればなるほど、扱いはどうでも良くなっていって、言うならば適当な処理を下します。ある程度の人付き合いは大事ですけど、もういらないかなぁって判断したらあっさり、緩やかに知り合いからリタイア路線へと変更します。大事な人相手だって、正直な話、天秤にかけますよ。自分とのね。
俺は胡散臭いこという気はないので、一番大事なのは自分だって言えちゃいます。心の中でね。そんなの、口にしたところで、誰も幸せにはならないから、ひっそりと黙っておきますけど。偽善者でもないんで。正義感を親父みたいに振りかざす気もないんで。
「アナタの悪い所、黙っているんだから、こっちも許して下さいよ」くらいの気持ちはどこかしら抱いていて、きっと、近くなるほど、その甘えは増えていく。
もちろん、甘やかしてもらった分以上に、俺はその人のこと考えて、悩んで、幸せとか大げさなことはいいませんけど、楽しい気分を俺と一緒にいる間は味わって欲しいスね。あ、楽しい気分っていうのは、楽っていう意味スよ。だから、別に重い話をしてくれても構わないんです。天秤にかけるっていうのは、そういう、どれだけ相手の為に自分が頑張れるかっていう意味ですよ。俺は、これをずっと上手に調節して生きてきたス。きっとこれは、器用と不器用とかまぁ差はありますけど、こうやって調節して生きている人が多いんじゃないスかねって俺は思うスけど。
汐さんはそうじゃなくて、いつでも全力。好きって思った相手には、愚かと言ってしまっても良いくらい、全力なんス。
たとえば、桜さんとか。桜さん相手に彼女は常、全力でぶつかっていきます。猪突猛進って良い言葉スね。四字熟語に当てはめるならまさにこれスね。その結果、いつも、自分自身がぼろぼろになって「もうだめ」って感じに消耗して、眠ってしまう。相手ことで悩んでいる汐さんは身の回りの生活も儘ならない程。同棲していなかった時、不意打ちで彼女の家に訪れると整理整頓された部屋が散らかっていて「なにで悩んでいるの」って聞くと「桜のこと!」って憤慨しながら泣くんです。なんて、可愛くて、なんて、愚かなんでしょうか。ごめんね、汚い部屋みちゃって。汐さん。
誰に「彼女は自己犠牲の人ですよ」って言ってもきっと苦笑が返ってくるでしょうけど。(きっとこの問いかけで「そうだね」って言ってくれるのは父親である祐樹さんだけなんスけど。そんな所があるから彼女は父親のことを盲目的に慕っているんでしょうけど、生意気な科白で言わせてもらえば、祐樹さんが見てるのは真実ではなく親の欲目っていう感情ですよ)
自己犠牲の人っていう言葉は俺の中で何一つ嘘はなく、ましてや笑われることでもないスね。身を切り裂いていくから、彼女は大切な人が少ないんです。そうしないと自分が耐えられなくなる、彼女なりの防衛術。他にもありますよ、汚い言葉で傷つけるのは、もともと、口が汚いっていうのもありますけど、強い言葉を吐き出して威嚇攻撃しているんです。そうすれば、中々、彼女の中に入ってこれないでしょう。
とっても可愛い。昔から、そういう所はまったく変わっていませんね。早熟だったから、昔は大人だったんですけど、今はこういう所も含めて少し子どもっぽいスね。いいですけど、可愛くて。大人っぽいとか。子どもっぽいとか。そんなの彼女であるなら、どうでも良いことなんで。
今、俺が問題としているのは、わりと、気持ちが表に出やすい人だから、安堵しきっていた自分の馬鹿さ加減ス。彼女の行動が眉一つで判っていたのに、数日かけないと、今回は知ることが出来なかった。震える肩が、俺のものが。彼女の中にある、白濁が。現実だと知らせていて。判るのは自分自身の愚かさ。一番、馬鹿なのは俺じゃないスか。どうして、気づいてあげられなかったスか。
ねぇ、汐さん。
俺、一つ決めていることがあって、貴女の前だけじゃ出来るだけ自然体でいようっていう決まりがあるんスよ。自分自身に素直だし、我儘も言いまくりますし、貴女をむちゃくちゃ幸せにしてあげたいって思ってるんですよ。俺。だから、今までも言ってきたスよね。喜怒哀楽のすべてを、見せてきたつもりなんですけど。
さすがに、この怒りは貴女に見せることが出来ませんね。人間って本気で怒ると、顔が醜く歪んだあと、無表情になって、頭が冴えわたるんですね。知りませんでした。
だから、今は目を瞑ってお姫様。この顔が見えないように。いち、に、さん、で魔法をかける。
大丈夫、目が覚めたらすべて終わってますよ。
怪我とか、今度の公式戦とか。そんな、今まで、自分の中で積み上げてきたものが、全部台無しになっても良い。天秤にかける暇はないスね。


ちょっくら人殺しになってきます。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -