汗でべっしょり濡れたハイネくんは震えながら僕の腕に縋りつく。嗚咽で舌が唾液を吐き出す。闇しか見えない双眸で僕の肉感を確かめるように、胸に顔を埋めた。呼吸が胸に押し込まれる。

「桜、さくら」

気が遠くなる程の謝罪を僕に向ける。名前を呼ぶことが謝罪なのだと気付いたのは三回目からだった。僕の傷痕を謎って、涙を流す。懺悔をハイネくんは繰り返した。
ハイネくんの懺悔は自分のためだ。所詮、この人は自分が可哀想で仕方ないから謝るに過ぎないということには名前の理由に気付くより先に気付いた。ハイネくんが誰かに同調する時は必ず自分と重ね合わせていて、感情移入してしまう。優しい人とは盲目に断言しない。彼も、いや、全人類が自分に優しいのだ。
ハイネくんが僕に謝る。ハイネくんの前にいる僕は高校生であった少年な僕か、大学生であった少女な僕か。そのどちらかだ。どちらにせよ、その僕は襤褸雑巾のように汚い格好をしている。血は首筋から吹き出し、処女膜が破れ血が股から落ちている。精気を失った青白い表情で嘲笑う。泣きわめく。今のハイネくんみたいに。



「さくら、さくら、さくら」

僕は優しく、まるで母親が子どもを包み込むように抱き締め、肩を撫でる。殺人鬼がいると知った子どもを護るように愛を注ぎ込む。母胎のあたたかさを諭す。子宮に彼を取り入れて、羊水に戻す。妊婦のような気分になりながら、ハイネくんに囁く。


「大丈夫だよ」

根拠のない台詞を。けど謝罪されている僕自身が大丈夫なので仕方ない話だと多少割りきってしまう。
優しくないと言った理由だ。
僕は過去など、何一つ気にしていない。謝られる理由がない。強姦されたことも。処女を失ったことも。スオウくんに対抗する為に、利用されたことだって、寧ろ幸福であった。今となっては。
縛り付ける材料に出来る。子宮の中に押し込んで、罪悪感で締め付ける。彼が勘違いしている間に。僕の胸には柔らかい母性愛なんて詰まっていない。あるのは醜い女の欲望だけだ。母乳を吸うと毒が侵入していく仕組みになっている。彼は麻痺して、僕に甘い、甘いものをくれる。
自分の醜さが浮かび上がるようになったのは何時からだろうか。執着心は昔から強かった。でなければ、辛抱強く、彼を愛している筈がない。ただ、あの頃はまだ美しかった。不思議だ。年を老う度に醜さが増す。傷付きやすかった若さが美しさを棄てる度に強くなっていく。僕は酷く醜く、彼に執着し、彼を抱き締めている。



「さくら、さくら、さくら」
「大丈夫だよ、ハイネくん」


知ってしまえば逃げ出していくかもね。愛情がすべて優しさなんかで構築されているわけがない。
膨らんだ子宮には欲望が詰まっているの。


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