大理石で埋め尽くされた部屋が基盤となっている城内で透は洋風一色に染め上げられた部屋を初めてみた。萌木色のレースのカーテンは中庭の枝木が窓の外から見えていて、静観な雰囲気を彷彿させる。
絨毯は珊瑚色で、部屋の隅には英国から輸入したであろう重厚な箪笥が備えられていた。箪笥の上には、乙女を象ったような可愛らしい硝子細工や人形が飾られている。大事にされているようで、埃一つ被っていない。
異質なのは、その部屋の中に漂う鼻につく血の香りだ。天蓋付ベッドの上で薄い純白のレースの隙間から、女の曇った悲鳴が聞こえる。猿轡を口に噛まされているのか、降格の隙間からポニーテールをした黒髪の女は涎を垂らしている。乳房にはピアスを開けられ、驚くべきは、膨れ上がった腹だった。妊娠しているのが解る大きさで、女の腹は子を孕んでいた。泣き叫ぶ女を詰るように、男は女の腹に陰茎を劈く。

「醜いでしょう」

ぱちぱちぱち。
拍手が部屋に鳴り響く。祐樹は優雅に笑って手をぱちぱちと動かす。醜いといいながら、笑う彼の趣味を透は疑う。



一週間、放置という安楽の地を手に入れたかと思うと、早朝から、頬骨を殴り飛ばされた。
首につけられた首輪を持ち上げられ、安眠を奪われ、獣のような口づけを食らわされる。
混乱する頭を余所に、祐樹は透のベッドに倒れこんで、寝てしまった。
睡眠を得ているときの祐樹を透は嫌いではない。
数時間後、寝起きの祐樹は起き上がり、透の方を見て頭を撫でた。その時の手つきは心臓が止まるくらい優しい。
「ごめんね」と寝起きの掠れた声で告げると、今までの振る舞いが嘘だったかと錯覚する。胸が締め付けられるような。こちらからキスしてみても、祐樹はなにも言わない。それどころか、さらに甘いキスを落としてくる。洗顔の道具を部下が持ってくるまでの数分間。夢のような空間だ。
けれど、夢は終わるものだ。着替えを終え、遠征から帰ってきた祐樹は透の首輪を引っ張り上げ、お姫様抱っこをして運ぶ。足は纏足され、角度的に立ち上がるのが不可能なヒールを履かされているので、透は立つという自由を剥奪されている。
連れてこられた部屋がこの部屋だ。久々の休日を満喫しようと祐樹は興奮しているのか、扉を珍しく自分で開くと、中に広がる峻烈な光景に顔を竦める。先ほどの光景だ。男は女の腹に恨みを込めて殴りつけながら、子宮の中に精液を放った。女は子供を殺されたくない一心で、許しを請うように声を出すが、声帯を切り取られる。外国人と疑う男は涙を流しながら、女の腹をナイフで突き刺しだした。何度も、何度も、血が飛び交う空間。純白のベッドが真っ赤に穢れていく。

「あれはね、あいつの子供なんだよ」
「はぁ」

衝撃過ぎて透はきちんと返事をすることが出来なかった。
祐樹の話によると、男は自分の子供を殺しているというのだ。何故なのだろう? と疑問を持つこと自体、禁じられているように感じたが、祐樹は気にせず喋りだす。

「一応、決まりでね。近親で結ばれることだけは禁止されていて。バカみたいな決まりだろう。けど、そのせいで、今、女を犯している彼は苦しんでいて。本当、どうしようもない。彼は、自分の姉が好きなんだよ」


祐樹は誰にも聞こえない声で「可哀想に」と述べたが、近くにいた透だけには聞こえてしまった。透はこういう場面を見せられるたびに、この人本当は優しい人なんじゃないだろうか? という錯覚を抱く。散々な場面を見せつけられてきたというのに。朝に焼付いた光景が脳裏からこびり付いて離れない。本当に優しいわけじゃない。優しければ、眼前で殺されている女にも同情を抱くべきなのだ。この人物にとって人間というのは対等ではなく、自分が親しい人間以外は塵屑のように映るのだろう。それならば、自分も早く殺して欲しかったのに。熱が伝わってくるほどの距離で抱きしめている。




天蓋の中では、女が子供ともども、死んでいた。





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