人を傷付けることを嫌がるこの人の綺麗な所が好きだ。
世の中には簡単に他者を罵倒して悦に浸る奴。残飯に群がる蝿のように不幸を餌にする奴。他にもたくさんいる。
例えば俺が迫害を受けていた時、助けてくれる奇特な奴なんていなかった。助けて欲しくもなかったけど。
冷ややかな眼差しで俺を見ていた。傍観者に罪はないという人間は嘘をついている。それは傍観者を救う為の理屈に過ぎない。
先日、放送された「無差別刺殺」で傍観者は被害者の写真を撮ったらしい。血を流す被害者にカメラを突き立て、笑ったらしい。それはもう加害者ではないか。笑ってしまえば、駄目なのだろう。傍観者としての立場を離れている。精神を破壊する行為だ。
要するに世の中には屑が余りにも多く各地に散逸しているものなのだ。
そんな中、祐樹はどこまでも綺麗にしている。別に彼が高尚な人間とか言うつもりはもうない。親馬鹿だし、気付いたら俺が悪いみたいになっている。正直、納得いかないことだって山のようにあるが。だが、祐樹は綺麗だ。
祐樹は許せない。
本当は世界を憎んでも良い背景を持っている人なのに、彼は本心では世界を愛している。
愛しているから許せない。反発して足掻いて、悩んで、笑って、泣いて、繰り返す。
祐樹はゆっくり深呼吸をして、耐える。耐えることが得意で、振り上げた手が下がる。テレビに向かって奥歯を噛む。
すごいのは、力があるのに耐えているところだ。祐樹くらい、なんでも出来れば、他者を雑踏のように踏みつけることは容易い。他愛ない言葉で他者を塵にできる。振り向かず歩いていくことが出来る。寄り添わず常に孤独であれる。
けど、嫌う。
祐樹は綺麗だから。
人に寄り添わずにはいられない。思い出せば俺を掴む手が出会ったばかりの頃、汗ばんでいた。心臓が震えている。祐樹は気を使いすぎだろう間抜けってくらい気を使う。賢い人でもある。力抜けよ、サボれよって言うが出来ないと首を振る。美しい。
両親が、家族が大好きで、俺を愛しているのは、一人では生きていけない人間で愛を貪欲に望んでいる脆い所を抱える人だからだ。
臆病で滑稽。
綺麗は沸き出す。背筋を伸ばして、強さを見せる。脆さを背中に抱えながら。俺は支えたいとは思う。離れようんて死んでも嫌だし、愛が失われたとしても、祐樹も俺も互いから遠退くことは既にないだろう。
背骨にキスすると祐樹は照れるように笑った。
俺を抱き締める。


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