猩々緋の眼に痛い柱と障子が飯沼透の慟哭に突き刺さる。床は猩々緋を印象付けるように白で支配されていた。
階段を上がり、王の為に造られた玉座。
透は手足を拘束され、剃り曲がったヒールの靴を履かされ、玉座に腰かける祐樹の膝の上で繰り広げられる凄惨な光景を眺めていた。
床転がったのは、まだ若い二十代前半の女性。厚化粧した顔は体液で剥落し、ぐちゃぐちゃになっている。四肢を切断され、腕を猿轡変わりに咥内に押し込まれている。止血されることのない傷口が床を汚していて、祐樹はそれを見ながらにやにや笑っていた。彼にとって退屈を凌ぐための道具に過ぎない。
女性はついに耳朶から耳を削除された。耳の削除と共に膣に祐樹の部下である水色の髪をした男の肉棒が埋め込まれる。死ぬ寸前の豚人間は良い締りを見せる。

「なぜ、目を残すか判る?」
「わ、わから、ない」

無視すれば、頭を潰されるので透は日本語を雄弁に操る男に素直な返事をする。

「人間は情報を八割、視覚に頼っている。つまり、痛みも直接伝わる」

祐樹はそれだけを告げると、水色髪の男に向け中指を立て下に向ける。男は「待っていました!」と言わんばかりに勢いで、女の双眸を潰した。眼球を容赦なく潰されてもなお、女は生きている。事前に薬でも投与したのだろう。悲鳴を撒き散らし、視界を失った女は「早く殺して欲しい」掠れた喉で願う。

「俺は喋ることを豚に許した覚えはないんだけどね。忘れてたよ。喉を奪うの。周子」

名前を呼ぶだけで水色髪の男はすべてを察する。ポケットから龍の刻印が刻まれた銀のライターを取り出すと女の喉に押し当てる。声帯を潰している。女は喋る権利され剥奪された。

「判る、透? こうして、視界を奪うことで女は情報を手に入れる術を失った。情報を失くした人間はいかなる状況に置いても弱者だ。女の望みは死ぬことだけだろう。だが、殺さない」

水色髪の男は陰茎を衣服の中に戻すと、女の首を片手で掴み、部屋を退出する。

「動かなきゃならないのが面倒だけど、おいで」

立ち上がることを封じられた透に変わり祐樹は透を抱き上げる。膝に手をやり、肩を支え。部下たちはボスの狂気染みた戯れに顔色を悪くするが「湯殿の準備をしておけ」という言葉で一目散に去っていく。

猩々緋の柱が立ち並ぶ先が見えない廊下を祐樹は軽快に歩く。女が引き摺られた血の跡が道しるべとなっていた。この染みついた血も部下たちが朝までには欠片も残らず清掃している。醜悪な光景を幾多と見てきたが、室内は昨夜の跡を残さない。
祐樹が指示を出す前に部下が、彼の前に影のように手を伸ばし扉を開ける。透が用意された部屋から最も離れていると思われる、鉛色に包まれた冷酷な部屋が表れる。手が自由なら鼻を両手で覆い隠してしまっただろう。
異臭が漂う。強烈な刺激臭だ。尿の匂いと死臭が混ざり合った、この世の終わりとも挿れる匂いがした。
目を凝らしてよく見ると、先ほどの女が水色髪の男に身体を蹴られ転がっていた。

「周子、ヤレ」

楽しみを奪われて興醒めだと水色髪の男は鼻で笑うが大人しく従う。男は井戸のような空洞に女を落とす。女は声にならない悲鳴を上げて、落下していく。どさ、という音が聞こえた。まだ、死んでいないのか、女のか細い悲鳴が透の鼓膜に届く。

「覗き込んでごらん、透」


透に拒否権などない。一端、地面に足をつけられ、祐樹に腰を支えられたまま落下した女を眺める。懐中電灯が照らされ蟲に群がられる女の姿を視界が捉えた。人肉を栄養としているのか、女は蟲により身体を食べられていく。

「こうやって、豚は死んでいく。視界を奪われた中で痛覚だけに頼って。ああ、後、鼻が残してあるでしょう。ここは、とっても臭いから。豚には丁度良い墓場だ」
「墓場なんて言い方勿体ねぇだろうが」
「それもそうだな、周子」

談笑を繰り広げる。透は吐き気を抑えるだけで必死だった。蒼褪めた透を見て、祐樹は微笑む。

「楽しめなかったみたいだね。今日のショーは退屈だったから。暇つぶしくらいにはなるかなぁって思ってたんだけど。そっか、透、ごめんね」
「いえ、いい、です」


祐樹が指す「退屈」は更なる刺激を求める。祐樹は頭を捻り考えた態度をとり、名案とばかりに透の下半身に手をやる。
萎えている透の陰茎を巧みな指捌きで、勃起へと導く。

「ひっ」
「反応してきた。可愛いね、透」
「っぁ、っ――はっ」

抵抗しようにも、拘束された身体は祐樹が支えないと立っていられない。暴れると、二の腕を強く引っ張られ、定位置に戻される。

「喘ぎ声、我慢しなくていいんだよ?」
「む、ちゃ、いうっな……――」
「ここ、響くから。狭いし」

亀頭を撫でられ勃起した陰茎を祐樹は白日の下に晒す。服をナイフでじょきり、じょきりと切り裂く。単価百万以上の服はただの布きれになり、地面に落ちる。勃起した透の小さな陰茎を見て満足そうに祐樹は告げた。


「退屈だったんなら、仕返ししよう」
「仕返し?」
「そう。透の精液をかけてやろうよ。俺の寵姫の精液を浴びるなんて豚にはご褒美になるかも知れないけどね」

横で聞いていた水色髪の男が寵姫のくだりで嘲笑う。鳥籠に閉じ込めた豚の間違いでないのかという侮蔑の意味を孕んでいた。祐樹は気にすることなく、すべて計算通り、通りの青白い太腿を抱きかかえ、女が落下した穴の上に透を乗せる。先ほど見た光景が網膜に焼き付いている透は落とされる恐怖に身を竦めた。

「落とさないから、今は、ね」

含みのある言い方を祐樹は業とする。周子を呼び寄せ、透の恐怖で僅かに萎えた陰茎に触れさせる。周子は退屈を絵に描いたように作業をこなす。処理をするように、亀頭の下を重点的に攻め立て勃起を促す。

「ひっぁ、ぐひぃ」
「色気ねぇ」
「色気なくても、可愛いだろう。滑稽で」
「女にしか興味ねぇから、俺はよぉ」
「この前、可愛い顔した男に勃起して突っ込んでたのは、どこの誰だよ。ようするに周子は顔がよけりゃ、性別なんて関係ないんだよ」
「わかってんなら、やらせんなよ。コイツタイプじゃねぇ」
「庇護欲をそそるから、本当は近づきたくないだけの癖に」
「ハッ! 人を変態の仲間入りさせんなよ、アァ!」
「そう勘違いしてくれていた方が助かるよ。今は、透に命令以外で近づいたら殺すからね」

脅しをかけるように微笑むが祐樹に周子は生唾を飲み込む。稀に見せられる笑っていない笑顔だった。牽制をかけられ「自分以上に目の前の豚へ嵌ってるのはお前だと」忠告してやりたかったが、薄皮一枚で繋がっている自分の首を護りたくて、首肯だけを落とす。

「そろそろ、イこうか、透」

満足したのか、祐樹は周子に陰茎から手を離させ、首筋を舐める。肉厚が透の背骨を蝕むように、刺激を与える。


「ひっぁぁがぁああああ!」

項に舌をもぐりこませ、甘噛みすると透はそれだけで達してしまった。陰茎からシャワーのように精液が飛び散る。穴の中で、ぼちゃぼちゃと垂れていく。その光景を見ながら祐樹は自身の陰茎を膨らませていた。久方ぶりに訪れる興奮に酔うように、射精した衝動で疲れ果てた透を宙にほうり上げて、お姫様抱っこする形で受け取る。下手をすれば、穴の中に透は落ちていた。


「ね、ほら、豚もちょっとは役に立てたかな」
「っ――」

声に出来ず首を振る透。祐樹は優雅にくるりと回ると、薄暗い部屋を出た。透は薄れゆく意識の中で祐樹がぺちゃくちゃ喋る声を聴いた。興奮するといつもより雄弁になるか、無口のなるのがこの男の癖だ。


「トイレから出てきたんだから、次はお風呂に入ってそのままセックスしようか」


部下にお湯は用意されたとかを、祐樹が喋る中、あの穴は便器だったのかと透は理解した。







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