スオウに告白され桜は言葉を失った。
観覧車は下りに入り、密室には二人しかいない。息遣いが桜の胸を打つ。スオウが誰を好きかくらいかなど、桜は等の昔に知っていて、この笑顔は初に向けられるもので。それが当たり前であったのに。
スオウが自分の虚無を好いていてくれていることは知っていたが、それは、女の子ってふわふわしていて可愛いよね、みたいな感情だけだと思っていた。長年、スオウの弟をしていたが、彼が自ら告白した話など聞いたことがない。初には敵わないだろうが、少なくとも、それくらいは、小梅としての自分を好いていてくれることになる。
嬉しい。
桜の胸に湧きだしたのは純粋な嬉しさだった。今まで女として見られることを隠し続け、男の子から告白されたことなんて一度もなかった。
女の子からは二回ほどあり「ごめんね」と断ると片方は「良いよ」と切なく消えそうな笑みを浮かべて、もう片方は「桜くんって寂しいね」と言われた。あの時の告白もこういった夕方で。
彼女たちは二人とも泣いていた。
ごめんなさい、と告げた。本当のことをいう勇気もなく。
女の子をそういう対象に見たことはなく、自分は君たちのように抱いて欲しいんだよ、なんて本音を告げることも出来ず。
淡々と、作業をこなすように振った。一週間くらいして彼女たちが違う人と付き合い始めた、という話を聞いた。一瞬、意味が判らなかったが、ああ、またか、と自覚する。
けれど、今は、男の子、としてではなく、女の子、としての自分を認めてくれている。それが、なにより、嬉しくて。
見透かされているような言葉とか、全部、打ち砕いてしまいたくて。自分が男だとか女だとか、彼の弟であるとか、そんな下らない柵を全部、突き破って、スオウの胸に飛び込みたかった。ハイネとのことも、この人の手のひらに触れると、全部、上手に忘れることが出来そうで。

けれど……――



「ごめんなさい」



桜の口から飛び出したのは謝罪だった。
「もちろんです、私でよければ」と答えたいのは、山々だが、真実が分かれば、傷つくのは、自分ではなくスオウだ。実の弟で男、そう彼が知った時、どれだけの傷を負うのだろう。そんなもの、測り知れないことで。自分の欲望だけで流されて良い問題ではない。
罰が下ったのだ。
今までの関係が心地よくて。生ぬるい湯の中にいるようだった。スオウの腕に抱かれ、女の子として扱われて。初のことを昔から彼が好きだといえ、今、眼前に居る自分だけを見てくれていたという事実が。何もかも、嬉しくて。



「ごめんなさい」



泣くことはずるいと判っているのに、決壊した涙腺は止まることを知らない。桜は手首で自分の頬を吹きながら、ひたすら、謝罪した。
スオウは断られた現実を受け止めながら、今くらい良いよね、と泣き崩れる彼女の肩を抱きしめた。細く折れてしまいそうな華奢な身体は温かく、震えていた。


「小梅さんが謝らないで下さいよ。勝手に盛り上がっていたのは、俺じゃないですか」


空元気が窺える声が、桜に届く。


「ちが、違うんです。僕が、悪いんです」
「けど、告白したのは俺だよ」
「け、けど、僕が悪くて。僕、は、駄目、なんです。付き合えない、んで、す。僕、スオウくんに、なにも話せなくて」
「話せないってなに? あ、家が借金しているとか? お、俺、大抵のことなら大丈夫だよ!!」


混乱する桜を抱きしめながら、スオウは検討違いな言葉を投げかけてくる。
桜は、ああ、そうか、この人は、ずっと真実を知らなければここで沸きだした申し訳なさを多少なりとも背負いながら生きて行くことになるんだ、と思った。
それならば、言うべきなのだ。言わないのは、誰が傷つかないためではない。言えない、のは、自分が傷つかないためなのだ。今更だった。いつだって、誰かの二番手で、いつだって、一番じゃなくて。自分を大事にする必要なんて、皆無なのだ。




「スオウくん」


桜はスオウの胸板を押し返しながらスオウに問う。
スオウは困惑しながらも小梅の言葉に耳を傾け、泣きやんだ、小梅の顔を見た。


「ちょっと、見ていて。僕の顔」


生唾を飲み込んだ音が聞こえる。
ごくり。
桜は鞄の中から、化粧落としを取り出し、綺麗に化粧をはぎ取って行った。模造された顔が露わになれば、凡庸で、良い人止まりの素顔が見えてくる。
見知った顔だ。
自分も。
スオウも。
だって、弟なのだから。桜は、スオウの。生まれた時からハイネ程と言わないが、一緒にいた。






「え? こ、小梅さん?」
「驚いた?」
「驚いたって。だって、その顔――」
「うん……桜だよ。スオウくん。小梅は……桜なんだ」




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