夢見草が散る。ピンクの花弁は若葉色の葉に変わり、春の終わりを告げた。春泥し、角ぐみ、メイフラワーが変わりに咲き誇る季節になった。
スオウとハイネは三年生に。
桜と初は二年生に無事進学した。初の出席日数が問題で進学できるかどうか職員会議で議論され、留年する人間がいると恥になる、という理由で進学を許されたのは、職員室内だけの秘密だ。






桜とスオウはあれから、小梅と扮した姿を通して幾度か会った。初めて、二人だけで出かけたのは、ショッピングモールだった。
淡い水色のワンピースを進めるスオウに対し、桜は「似合わないから」と謙遜気味に述べたが、少々強引にスオウは桜に服を送った。もう少し高いのをプレゼントしたかった、と悔やむスオウの横で、桜は初めて、自分を女として見ていてくれる人からのプレゼントに笑窪をつくった。
笑う桜を見て「小梅さんは笑っている顔も素敵ですね」とさらりとスオウが述べてしまったため赤面した桜が顔を覆い隠して「ありがとうございます」と霞む声で告げた。
それから、二人は幾度となく、出かけた。
桜は逃げたかったのだ。
自分の心から。想い人が初ばかり見ているという現実から。いつだって、ハイネは自分のことなど見てはくれない。淀んだ視界の中を遮るのは、自分ではない。群青色の空に飛行機雲が通っている。凡庸とした空に、絵をかき、彩る飛行機雲に桜はどう足掻いてもなれなかった。
そんな時、声をかけてきてくれたのが、スオウだった。
スオウはどこまでも優しい。別にそれが特別というわけじゃない。有り触れた優しさだ。呼吸と同じように、自分の肌にくっ付いてくる。スオウと触れあっていると、自然体な自分でいられるような気分になった。
だから、逃げた。スオウに甘えた。
本当は甘えた所でどうにもならないことなんて、桜にはとっくの昔に判りきったことだったが。甘えるという以外で桜は逃げる方法が思い付かなかった。
そもそも、今の、逃避場所だって、結局、初のために用意された場所であることは重々承知だった。
スオウ自身、自覚がなかろうと、振り向く視線の先にいるのは初のために用意されたものだ。自分の為の場所じゃない、なんて、求める欲求が強い我儘な桜はその度に、心の中に蓄積されていく嫌なものを感じ取ったが、ハイネと初を見ているより、よっぽどましだった。








「小梅さん」
「す、スオウくん」
「お待たせ。待たせてすみません」
「え、大丈夫ですよ。さっき、来たばかりです。私も」



ならよかった、と笑い合いながら、待ち合わせ場所である駅前の時計塔の下から二人は動く。今日は遊園地に行く予定だった。
スオウは小梅の歩幅に足を合わせながら、そろそろ手を繋いでも良いだろうかと、想いながらちらりと小梅の方をみた。
自分の視界から覗く、小梅はいつも上目使いで、とても可愛い。化粧は濃くなく、薄くのっている程度で、きっと柔らかいのだろうと、想像する。妄想の中での小梅は柔らかかった。こんな身なりをして、付き合ってきた女も数多くいるが、童貞である、スオウは豊かな妄想を膨らませていった。
二の腕の感触、潤んだ、唇。胸がないのが残念だが、愛があれば貧乳でも構わないんだと改めて自覚する。
男っていうのは素直な生き物で、深夜、小梅のことを考えていたら、スオウの陰茎は勃起して、オナニーを行ったのは、もちろん、スオウの中だけの内緒だ。AV女優に興奮することは、良くあったが、実際、誰か個人を特定して、陰茎を膨らませたのは、初めての経験だった。
ああ、好きなんだなぁと、そのたびに自覚する。
どこまで好きなのか、と聞かれれば勃起するほどだし(スオウはこんな直接的な表現は好まないが)一緒にいたいなぁ、と思う。結婚を考えている? と尋ねられれば、告白もしてないのに、そんなのは無理だよ、といえる。
小梅と一緒にいる時間は心地よい。親友である翼以上とは言いたくないが、まぁ、またそれとはまったく別の種類のものだから比べようがないが。今までいた女の子たちとまるで違うということは判る。
一緒にいて、苛立たない。失望もない。失望もされない。
変な期待感を持たれることなく、かといって、一緒にいることを嫌がっている素振りを見せない。
むしろ、一緒にいることを小梅は歓迎してくれているようだ。
女子高ということで、会う時間は限られているが、友達と言うだけで、これだけ会ってくれるだろうか。会ってくれる、というのは、やはり脈があるということではないだろうか。




「小梅さん、俺、ジュース買いに行ってきます」
「え?」


返事を訊く前に駆け出す。遊園地の観覧車の下で、もうすぐ番が回ってくるというのに、残された桜は戸惑いながらスオウの奇行を眺めていた。
とりあえず、並んでいて、並んでいる間に、スオウが帰ってこなければ、他の人に順番を譲り、一番後ろから並び直せば良い。時間はまだ、たっぷりあって、今日は夜のパレードまで見て帰る予定なのだから。





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