黒沼桜の望みは彼に殺して貰うことだった。犯して貰うことではなかったのだ。名前を呼んで貰うだけで幸せだった日々など既に尽き果ててしまった。
皮膚を切り裂く感触がする。
桜の服はばりばりと破かれ、持っていたナイフで肌を傷つけられてしまった。ふっくらと膨らんだ胸にナイフの先端が触れる。歪みを切り裂くように、曲線を描いていく。恐怖に怯えながらも桜の陰茎は反応を見せる。ハイネは醜い物体を凝視するように眺めると鼻で笑った。ナイフの先端は乳首に触れた。突かれると、真っ赤な母乳がでてきた。ハイネの白黒な世界には泥が乳首から溢れ出ているようだ。桜は悲鳴を上げたが、切り裂かれた制服により、口を詰められてしまった。唾液が口角から垂れ下がり、視界は涙でいっぱいになった。可哀相という表現が良く似合う光景だ。ハイネはそんな桜を見ながら、つまらない現実に嫌気がさしたというように笑った。小さな落胆は桜の心に大きな棘と突き刺した。乳房をこのまま、ナイフで切り裂かれ、自分という血の中で彼が笑ってくれる方がよっぽど良いものに思えた。


「良かったね、桜」

にっこりと笑っているのに、絶望した気配を覗かせるハイネが告げる。何が良かったのだろう。犯して貰うことだろうか。桜は混沌しながらハイネの言葉に耳を傾ける。ハイネはその間もずっと両腕を動かして、桜の身体を蹂躙した。
太股を持ち上げ、男性器も女性器も存在する桜の下半身を見た。小さな陰茎は勃起し、膣から淫液が漏れていた。痛いということを快楽へと変えてしまう性癖が桜には備わっていたからだ。桜は、ぐじゅぐじゅに濡れた膣に指を這わされ、身体を震わす。誰にも触られたことのない秘部がハイネに指により侵食される。指を膣が食べる。伸びた爪が膣内を切り裂く。桜はもがき苦しむがハイネの腕により拘束され、痛めつけられた身体は反抗する意思を持たない。
止まらない恐怖と僅かな快楽と罪悪感が桜を蝕んでいった。言うべき言葉ではなかったのだと。自分という存在がハイネという敬愛すべき人間を傷つけていたという真実が胸に痛みを走らせていく。知っている。自分も良くする。何かを諦めたような表情だ。
いつからだろうか、ハイネがこんな顔をしだしたのは。幼いころはもっと笑っていて、優しくて、いつも押し込めていた大切なものを知っている人だったのに。今はその片鱗すら見えない。何が悪いのか。何も悪くないのか。桜はそれすら分からず、自分がハイネを好きだったという定義に戸惑う。
思い返さなくても随分と自分勝手な感情だった。好きというものを。自分を愛して欲しいということも出来ず、中途半端だった。数年前から諦める準備をしていたものだ。だから、スオウに告白され自分の心が揺らいだのだ。
好きというのはなんだろうか。
好き、ハイネの想い人である初は好きというものはもっとあたたかいものだ、と言っていた。あたたかくて、大好きでいっぱいになるものだと。お母さんと一緒にいるときと似ている。お父さんと一緒にいるときと似ている。抱きしめられているときに。
両親に抱きしめられたのはいつだっただろうか。随分前だ。ずっと良いよ、と言ってきた。一つ下に妹もいたし、昔から両親は忙しそうだった。抱きしめてあげるよ、と言われても、大丈夫だよそれより、と話しを逸らした。いつも、誰かの負担になりたくなくて、中途半端で、嫌われるのが嫌で。逆にハイネは両親に抱きしめられることが良くあった。病気ということが、目立っていて、愛されていたと幼い桜は思った。いいなぁと、馬鹿みたいに思ったものだ。同情して欲しいという気持ちが自分のどこかに隠されていて、それを押し込めてきたので、何も言わずとも気付いて貰えて手を引っ張ってくれる存在がいて良いなぁと、中髄で考えていた。
けれど、自分が良いと悠遠に見つめていた光景がハイネにとって良いものではなかったのだと桜は思いながらハイネの指を感じた。
きっと、先ほどまで、そんなこと思いもしなかったが、ハイネはそれが嫌だったのだ。誰かと別として扱われるのが。過保護が。だからこそ、一人になりたいと言って公園へ出かけたり、初と一緒に居ることを望んだのだろうか。初は良くも悪くも誰かを可哀相だからと言って否定しない。可哀相だと思わない。平等だというわけではない。そこまで綺麗なものではないが、純粋なのだ。ずっと。なにもしらない。自分が特別だと言われる中でなにもしらない、真っ白な存在が自分を見つめ特別視しなければどれくらい幸せだろうか。
幼い頃は笑っていたハイネの姿が被る。
開かない口でごめんなさいと謝った。

「例えば家畜を殺す時って罪悪感がわかないよね。それと同じだと思わない。俺がこんなことして、桜は悲しい。じゃあ、家畜も悲しいかもね」

桜の一度も使われたことがない膣にハイネの怒張が埋め込まれていく。ぴりぴりと肌を裂く感触を桜は味わう。激痛という言葉は似合わない。今まで利用したことない場所が暴かれていく。殺されていく。これはまさしく、死かもしれない、と桜は思った。一度、自分は死んでいくのだ。悲しさなど、なかったことにするように。膣から処女膜が破れ、血がどろりと湧き出る。けれど、ハイネはなにも思わない。血というよりも泥の塊だ。嘘、血ということは判別している。判別はしているが、判別した先に感情などこもっていない。桜は口からこぼれる悲鳴の他になのか吐きだしていたが、ハイネの脳内には届かなかった。ハイネは自分勝手に腰を動かす。強姦をしているというより、オナニーをしている感触に似ている。セックスはいつまで経っても慣れない行為だ。絡みつく膣を破壊する。桜はいつまで経っても泣いていた。そういえば、この弟の涙は久方ぶりにみた。脳内が冴えわたっていく。ああ、すっきりしたという言葉がとてもよく似合う。






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