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射精してしまったショックで、縛られた腕を寄せ、顔を隠す。見られたくなかった。ジルは僕のその動作が気に食わなかったのだろう。

「悪いことしか考えないねぇ、充葉ぁん」

なんて言いながら、強引に腕を頭の上にどけさせる。乱暴な動きは僕を気遣う素振りを微塵も感じさせず、痛い。

「ふふふふふ、あのねぇ、充葉ぁ、さっきの顔は良かったよぉ。イっちゃった時の。オレのも思わず反応しちゃったもの。うふ。充葉の恐怖に塗れて、けど快楽が上回って、予想外の出来事にいつも隠していた顔が見える瞬間ぁん。最高に楽しかったぁ。可愛かったよぉ、充葉ぁ。ねぇ、だから、もっと見たいなぁって思っちゃったぁ」

降り注ぐ言葉を半分聞き流しながら、射精の衝撃に浸っていると、そんな暇なんて与えないよぉ、と言うように、ジルは僕の膝を掴み、抱えると、自身の顔を尻の穴まで近づける。僕は赤ちゃんがオムツを変える格好をさせられている、と自身の状況を把握すると、射精と交じり合って、羞恥心が募った。

「やめろ、ジル! なにする気だ!」
「充葉ぁ知らないのぉ。男同士のセックスはねぇ、ここを使うんだって」
「ヒッ!」

ぷすっと、無理矢理アナルに指が突っ込まれる。達したばかりで敏感な身体は、必要以上に反応して、その指を拒絶する。

「いた、痛いッ!」
「えぇん。痛いのぉ、充葉ぁ。力、緩めてくれなきゃ、先へ行けないのにぃ」
「無理だって!」
「やる前から諦めちゃ駄目だよぉ。けどぉ、充葉もぉう、知らないんだねぇ、ここ使うって。いっぱい本、読んでるのに、知らないなんておもしろいねぇ」

そんな本読むかよ! 大体、お前はいったい何の本読んだらそんな知識を得て帰ってくるんだ。まぁ、ジルの読んだって言うのは、人から見たらページを捲っていた、程度だろうけど。セックスやジェンダー関係の本は僕だって読んできたけど、性的マイノリティーの本にはそういう知識が書かれたのは読んだことはない。

「煩、い」
「瞳に涙溜めてそういう台詞を言う充葉は、すっごくいいよぉ。けど、もう少し力、緩められないのぉ?」
「無理だから、もう、止めろよ」
「仕方ないなぁん」

 深い溜め息をジルは吐きだすと、制服のポケットから、ごそごそ、なにかを取りだした。一体、何が出てくるのかと生唾を飲み込みながら、涙とジルの唾で汚れた眼鏡のレンズ越しに、その光景を眺める。

「これでいいかなぁ」

 取りだされたのはグロスだった。中学に入り化粧を始めたジルが所持している化粧道具の一つ。

 グロスは直ぐに落ちちゃうんだよねぇ、なんて溜め息を吐きながら愚痴を話すジルの姿が既に懐かしくさえ思う。

「これしかないけどぉ、いいよねぇ充葉ぁ。急だったからぁん、用意してなかったんだぁ。今度からは用意しておくからねぇ」

 笑みを絶やさずジルは述べる。
 今度からって、まるで次があるみたいな言い方に背筋が凍る。

「やだって、ジル。止めて、よ」
「何度言っても駄目なものは駄目だよぉ」

 間髪いれず、相変わらずな喋り方でジルは断りを入れると、僕へと近づき、何を思ったのか、僕の顎に手をやると、自身の顔を近づけ、僕の口へと口づけをした。
 突然のことが多すぎて今更だけど、歯茎を舐められて、舌を吸われ、ついていけない。酸素を上手に吸うことが出来ずに、縛られた腕でジルを叩くけど、ジルは気にせず僕へと口づけを続ける。

「ん――! ん!」
「ふふ、気持ちいい、充葉ぁ。サービスだよぉ」
「はぁっ……ッ はぁ」

 サービスの意味が判らない。酸欠になり、口を離された瞬間を狙って、息を吸い込む。身体ががくがく震えていると、ジルは口づけを再開する。
 キスばかりに気を取られ、酸欠のせいで頭はぼんやりと霞みがかっている。夢だったらいいのに。
 内腿を持ち上げられ、先ほど、僕のアナルへ指を突っ込んだ時と同じ体勢にされる。

「ん―――! ん――!」

 懲りずに止めろ! と叫ぶけど、ジルの指は止まらない。ジル愛用のグロスがぶちゅうと不快な音を立てて搾り出されると、僕のアナルへと塗りたくられる。
 きらきらと僕のアナルはラメで光っているのだろう。潤滑油変わりを手に入れたジルは遠慮なく僕の小さなアナルへ指を突き刺した。

「あ! ひゃ、あぁぁぁ!」

 狙ったように口を離され、咥内へと吸収されなかった悲鳴が音を出して誰もいない閑散とした教室に響き渡る。
 僅かどころではない。ジルの長い指が僕のアナルへしっかり入っている感覚がある。普段、排出する場所に異物が入り込んだ違和感で支配されてしまう。

「だめぇ、ジル、やめ、やめろっ、ジル……やだ」

 嫌だ、嫌だとついに頭を振る。やめる気配なんか見せないけど。今日だけで、いったい、いくつの、拒絶を吐きだしたのだろうか。
 ぐちゅぐちゅ。嫌な音だ。グロスだけの音じゃないと、下肢に目を向けると先ほど僕が吐きだした精液も利用しているようで、白濁が光り輝く様はどんなホラー映画よりも恐ろしい。

「どこかなぁ、充葉の気持ち良い所はぁ。あのねぇ、どこかにある筈なんだぁ。充葉が気持ちよくて、気持ちよくて馬鹿になっちゃう所がぁ。ちゃんとぉ、見つけてあげるからねぇ」
「……ぁ、ひゃっ……あぁ」
「ここかなぁ。ここかなぁ。ふふ、充葉ぁ、掻き回して欲しい所があったら教えてねぇ」
「そんなっ……ぁ、ない、ひゃぁ」
「だんだん、近づいているみたいでぇ、良かったぁん」

 駄目、嫌だ、熱い。
 本当に、馬鹿になる。溺れてしまう。精神的な溺れじゃない。快楽の海に飛び込んでしまいそうだ。
















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