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 一人はとても孤独だ。
 充葉はオレから見たら馬鹿みたいに、いつだって一生懸命だった。爪を剥がされた子どもみたいに、オレに対しいくら獰猛的になろうとも、傷一つ負わせられない。充葉は昔からそれを心髄のどこかで自覚していたけど、認めようとせず、不屈の精神でオレに刃向ってきた。
 充葉だけで、そんな充葉を見ていると、オレの心は酷く落ち着いた。
 充葉はオレがなにをしても受け入れる。簡単に。
 充葉の前でリストカットしたことがある。
 充葉は心配だとオレに抱きついた。
 充葉を強姦した。反抗して、オレの前から逃げようとした充葉だったけど、いつもの悩みだったらしく、ふらぁっと充葉はオレの元に帰ってきた。ご褒美をあげたら充葉はいつだって簡単に飛びつく。
 オレと充葉は付き合うようになった。充葉を抱きしめると羊水に浸る気分にいつだってなれる。身体が構築される。心臓から四肢が生えていく。充葉はオレに生命を預けているようだった。


 オレの母さんはオレを不要という作りで生命を与えたから、オレは母親という存在を知らなかった。オレに与えられるのは、母さんの幸福を犯してしまった悪魔に与えられる、下賤な仕事ばかりだ。
 オレは母さんという存在に対し、償う行為でしか、接し方を知らなかった。母さんもオレのことなど邪魔であったのだろう。オレは母さんに愛されたことなどなかった。母さんがオレにしたことは血液を分け与えた。
 母乳は出ず、オレは人工物を吸って成長した。仕方ないことだ。オレは諦めなければいけない。オレは望むという行為すら大罪である星の元生まれてきたのだから。
 抱擁されるというのは、どのような気分なのか。判らない。判る必要すらない。
 頬を頬で融合させ、唇と唾液で分け与える。嘔吐。痛哭がオレを蝕む。生まれながらにアイソレーション。


 だからなのか、母親という存在に焦がれたのかも知れない。無自覚。オレは自分でその肯定を認めるべきなのか、知らず、オレの中にある種は潜在意識の中で成長を遂げただけであった。
 充葉はオレに愛を与えた。
 皆が逃げていく中で充葉はオレの傍に寄ってきた。
 充葉と付き合いだして、愛をささやいて、充葉がオレにそれを返す。充葉は気付いていないが、照れていない素振りをしている時でも耳朶だけが真っ赤になり、耳が前後にぴくぴく動く。 
 充葉は会話しなくても、そうやってオレに応える。充葉は要望したことを、文句を垂れ流しながら答えてくれる。充葉はオレの手を握る。充葉はセックスというご褒美を与えなくてもオレと手を握り合って一緒の布団で寝るだけで満足するようになった。充葉の心臓の音を聞いていると、オレは安心する。
 胎児になった気分だ。充葉は知らぬ間にオレを懐胎したのだ。



 悠遠された愛情を充葉はいつだってオレに与える。オレはその度に、死にたくる。絶頂期で死んでしまいたいからだ。
 だが、充葉は、いつだって、そんなオレを止める。オレが正常であることを望む。オレの死を拒む。
 その度に、やはり充葉はオレの母親変わりのようだと実感するのだ。生まれながらにして存在意義を否定され続けてきたオレが、充葉の息吹により、生きることを許される。充葉は愚かしいけれど、とても愛しい存在であるのだろう。



ああ、なんだろう。
なぜか泣けてきた。






「充葉ぁん」
「どうしたんだよ、ジル……まだ、よなかじゃない、か」
「うんうん、なんでもないのぉん」
「そう。ほら、こっちおいで」




充葉はオレを引き寄せ、背中をぽんぽんと叩いた。卵の中で二人っきりだ。充葉が叩く音はとても心地が良い。
ねぇ、充葉、オレのお母さんになってよ。お母さんになってよ、充葉。充葉がお母さんだったら良いのに。






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