冬の日でさえあなたはずうっと泣いていた。凍てついた涙などもろともせず、ただ、体内の水分をまるで涸れさせるように涙を流していた。そんなとても弱いあなたであったけれど、わたしはたしかに幸せを感じていた。焦がれるような戀をし、まどろみのような愛に逢え、静かに眠る夜のすばらしさを知った。氷上の危うい幸せではあったけれども、どうかすこやかに、おやすみなさい。 





side……慈雨 









帰宅を促す準備を始めた。学校は一週間休学。最近の俺の愚行を知る人間は気にも留めないだろう。初めに取り掛かったのはホームセンターへ行き木材を買うこと。買い込んだ木材を車へ積み俺の家が所有する山へと連れて行く。私有地の看板が立った金網を抜け、立地が良い場所を探す。土は柔らかすぎず硬すぎないのがちょうど良いだろう。土木作業用のスコップを車内から取り出し、穴を掘る。一心不乱に。つぐみが入るのだから居心地が良い穴が良いだろう。形も先ほど、図ったので完璧だ。足りないということはない。穴は三日がかりで作った。その後、棺桶は二日かかりで拵えた。綺麗な細工はいらない。細工が必要なのは細工しないとやっていけない豚共だけだ。俺のつぐみは清楚で質素だが、素材が素晴らしいものがよく映える。昔からそうだった。つぐみは自然体を好んだから、俺がする香水とかも拒んだんだよね。
つぐみの家はつぐみが通う公園から彼を尾行して知った。背後から覗くたびに豚共と会話を交わすつぐみの愚かさに嘆きたくなったし、脳内が沸騰してしまうかと思ったが自身の手のひらを噛み締めて耐えた。マンションに到着すると後は簡単で下準備も終了した一週間後に決行された。
お風呂に忍び込みつぐみを待つ。俺の遺伝子でも扉をあけられたのは両親のあたたかい配慮だろう。今から、つぐみは埋められるのだけど。けど、これ以外、方法が思いつかない。つぐみが他の腐敗物と混ざり合ってしまう前に除去してあげなきゃいけない。俺から離れていくなんて許さない。つぐみ。君は俺の傍にいればいいんだ。ただ、それだけで良い。前みたいに慈雨くん許してよって震えた口調で言うといいよ。
風呂場にきたつぐみは呑気で安心していた。馬鹿だなぁ。可愛い。ここは安心できる場所じゃないんだよ。下手すれば一瞬ですべてが終わってしまう場所なんだ。俺がいないでしょ。家族がいないでしょ。こんな場所、駄目だよ。
背後から襲いかかるとつづみはもがき足掻いた。俺の皮膚を引っ掻くつぐみ。口で何か言っている。濁っているけど知ってるよ。慈雨くん助けてって君は言っているんでしょう。昔からその言葉しか知らなかったじゃないか。俺はつぐみの口を塞ぎ、薬品でつぐみを眠らす。


「つぐみ」


愛しくて、君に早く帰ってきて欲しくて、思わず名前を呼んでしまった。今はゆっくりお休み。俺は君を担ぎ上げ、濡れた身体をバスタオルで丁寧に拭いて風邪をひくと可哀想だからジャージを着させてあげる。一緒にお風呂入ったの久しぶりだねぇって思いながら。最近は、つぐみ父さんとばかり入っていたから。スキンケアを怠るつぐみの面倒臭がり病に痺れを切らした父さんが洗い出したのが原因だけど。お蔭でつぐみの肌はいつももち肌で触り心地が良い。赤ちゃんみたいだ。
服を着せたつぐみを抱き上げ、寝袋に入れる。マンションの地下に止めておいた車まで運び乗せる。俺は運転席に腰掛けハンドルを握り、夜の街を抜ける。郊外にある山まで行くと人の数が減少し、私有地へ入ると誰もいない。用意しておいた棺桶の中に寝袋からだしたつぐみを横たわらせ、埋める。あとはつぐみが起きるまで見張っていれば良い。眼球で覗き込めばつぐみが脅え、俺に助ける声を叫ぶ姿が見える。





「慈雨くん、ここは、どこ、なの、早く出してよ」



起きたつぐみは想像以上に可愛い声色で俺に助けを望む。口角が自然に上がるのを我慢しながらつぐみの声に耳を傾ける。ああ、つぐみ、とっても良いよ。もっと俺を酔わせてよ。つぐみだけだよ。昔からさ。俺をこんなに満たしてくれるのは。他と関わるなんて許せないよ。雄飛って言ったっけ? 下等だよね。脳みそがない感じ。つぐみの細胞を配分してあげても足りない。他にも、どうしてつぐみと関わるのだろう。つぐみも、どうして俺以外と関わろうとするのだろう。他に良い道があったでしょう。つぐみ。俺は、許さないよ。もっと、俺に媚びて。俺だけを見て。俺だけに我が儘を言って。他の人なんかに叫ばないで。




「慈雨くん、許して、許して、ごめんなさい、慈雨くん、慈雨くん、許して。僕を、許して、慈雨くん、お願い。僕。嫌、だ、よ。慈雨くんに許してもらえない世界なんて、とてもつまらないものだから。慈雨くん、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」



本音を吐き出すとつぐみは狂ったように俺に叫び続けた。棺桶を叩いているのかガリガリと耳障りな音がする。そうだよ、もっと、つぐみ、俺に言えばいいよ。俺だけに。俺の為だけに。俺は――








「つぐみ」


一日放置したのち、つぐみを棺桶から出すと酷く憔悴した姿だった。やはり棺桶を叩いたのか。最後、暗闇の密閉空間に閉じ込められて、許してごめんを繰り返され、精神がゆるやかに崩壊していったのだろう。爪で木を引っ掻いたらしい。爪が捲り上がり、痛々しい姿だ。俺の、俺だけのつぐみにようやく戻ってきてくれた。長い旅が終わったようだよ。つぐみ。
折れそうなつぐみを抱きしめる。交際も順調に始まるのだろう。浮気したことはどれだけ懇願されても許すつもりは実は初めからないけれど、今回の一件でなかったふりくらいはしてあげるよ。
ああ、そうだ。思いついた。付き合いだしたんならセックスしなくちゃいけないね。気絶したつぐみを抱きしめて、その場で裸にする。青姦するのは初めてだね。実は普段のセックスは手加減していて、俺はつぐみが泣きながら苦しみ、助けてって叫ぶ姿を見るようなセックスが好きだって言ったらどんな顔するだろうな。大丈夫。つぐみはその場でマグロになって寝転んでおいてくれれば、後は俺が望むセックスをするから、それを受け止めてくれれば良い。
後孔に指を突っ込む。意識がないのも関係しているのか、自慰を積極的につぐみがするタイプではないからだろう。固く閉ざされ貝のようになった窄まりをこじ開けていく。唾液を使い簡単に慣らすと、反り勃つ陰茎をつぐみの後孔に捩じ込んだ。



「ぁあぁあがぁあぁ!!」
「あ、起きた? つぐみ」
「慈雨、くん。ひっぁ、ひゃぁぁぐああ! い、痛いよぉ。いや、止めて」
「止めてじゃないよ。せっかく、恋人同士になったのに。それより、外に出れて俺に感謝するべきじゃない? あ、それともつぐみはまた棺桶に戻りたいの?」
「ひっぁああぐぁあ、そんな、こと、ない、いや、許して、慈雨くん」



許してと縋りつくつぐみが可愛くて首の裏に噛み痕を残してあげる。また痛がって抗えない姿に興奮がます。俺は強引につぐみの中に入った陰茎を動かす。つぐみの後孔から血が垂れ流しでてきた。良い滑り心地になり俺たちのセックスの手伝いをしてくれている。つぐみが痛いと言いながらも途中からどこか幸福に身を善がらせた。良いんだ。傍にいてくれるなら、俺は傍で。ずっと俺の傍に居ることだけがつぐみのお仕事だよ。今日のこの行為はそのためのご褒美と言えるかも知れないね。
セックスが終わると再びつぐみは気を失ってしまった。愛しい子が帰ってきた祝福のキスをつぐみに降らす。
衣服を着せ、俺たちの家へと帰った。











家に着くと脅えるつぐみの腕を掴んで食卓で両親に報告。もう一度付き合う事にしたからあのマンションはもういらないってちゃんと言わないとね。買い取ったみたいだから、いずれ俺たちが別荘として利用しても良いけど。
報告の最中つぐみは一言も喋らなかった。俺は不振に思われるでしょう? という合図の変わりにつぐみの肩を揺らした。

「つぐみ」
「あ、あの、うん、そういうことだから」

未だに身体が怠いつぐみは俺の言葉にぎこちなく頷いた。駄目だよ。父さんと母さんにばれたら俺は今度こそ嫌われちゃうかもしれないでしょう。好き勝手生きて嫌われなかったけど特に母さんは自分の身内にはとことん甘い人間なんだ。俺がつぐみを傷つけたって知ったら激怒して離別させられるかも知れない。そんなの嫌だよ、俺は。母さんに嫌われるのも嫌だけど。大丈夫、良い子に戻るから、俺とつぐみを引き剥がさないで欲しい。













「慈雨くん」

後日、母さんに呼びだされた。
嫌な予感というのはすべて当たるもので、つぐみが父さんに喋ってしまったらしい。嫌われるかと想像すると絶望的な気分になるし、今までの自分の行動を急激に後悔する。俺は小心者なのだ。自分が認めている人には嫌われたくない。母さんはああ言ってくれたけど、今回は話しが違う。
ごくんと生唾を飲み込む。けど、あの時は、どうすれば良いのか判らなくて。俺は、どうしても、つぐみと離ればなれになりたくなかったんだ。早くしないと穢れていってしまう。俺のつぐみが。俺に、縋ってくるつぐみが。

「母さん」
「なんて馬鹿なことをしたんだ」

母さんは俺の頬っぺたを叩いた。力の限り。手を振り上げられたとき、これは冷たい手のひらが飛んでくるかと思ったけど、母さんの手のひらはあたたかだった。俺はおそる、おそる母さんを見上げてみると、母さんは泣いていた。父さんと喧嘩して拗ねるように泣く母さんは偶に見るけど、子どものことを思って悔しそうに泣く母さんは初めてみた。つぐみと似たような表情になる。この二人はやっぱり血が繋がっているんだと痛感する。

「母さん、俺」

奮える手を伸ばして母さんを抱きしめようとすると母さんは逆に俺を抱きしめた。

「後で、謝りなさい。きちんと。話し合いをしなさい。慈雨」
「うん、母さん……そうだね」
「僕は君も愛しいけどつぐみも愛しいんだ。だから、二人には幸せになって欲しい。これ以上、馬鹿なことをしないで」
「うん……ごめんなさい」

「無理矢理生まれた関係はしょせん、独りよがりでしかないんだ。二人分の重さをお互いが納得する形で背負いなさい。それがだめなら、慈雨とつぐみは別れるべきだ。離別を受け入れることも、すばらしい愛なんだ。自己愛にまさる愛なら受け入れてみせなさい、慈雨」


母さんに言われた言葉がすとんと胸の中に入ってきた。誰かの言葉に納得してしまったときに起きる現象だ。俺はなんていうことをしてしまったんだろうと、今更ながら後悔が湧き出してきた。



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