13一応、僕は「嫌だ! やめろよ、ジル」と言って見せた。自然と震える身体が憎たらしかったし、傍から見ていたら怯えていると一目見てわかる声色だっただろう。両手を頭の天辺で縛られた身体も震えているし。いつも、勉強する机の上に押し倒されているので、アンバランスな違和感がさらに僕を責め立てた。 「ふふ、充葉ぁん。無理だよぉ。知っているでしょう。大丈夫、充葉もきっと気持ち良いから」 僕の否定はやっぱり無いものとして処理され、ジルは制服を捲し上げた。けど、シャツが胸元で止まるのが煩わしく感じたのか、シャツのボタンを遠慮なく破る。はじけ飛ぶボタンが教室の床にぽたんと落ちた。そんな音さえ聞こえるので、ああ、今本当のこの教室には僕とジルしかいないんだってわかって安堵の息を漏らす。ジルはそれを、勘違いして、やっぱり充葉も良いんでしょう、なんて言ってきたけど。そんなわけ、あるかよ。 「充葉の肌、見たの久しぶりだなぁ」 「そう、かよ」 「うん、そうだよぉ。けど、相変わらず貧弱だねぇ」 「黙れ! もう、やめろよ、ジル。なぁ」 「ふふ、なに言ってるのぉ。変な充葉ぁ」 「だから! 話、聞けって!」 「嫌だよぉ。どうして話聞かなくちゃいけないのぉ。ねぇ、充葉ぁ。充葉は黙ってオレの下で喘いでいたらいいんだよ」 ね、と後押しするようにジルは微笑むと、僕の乳首を摘まんだ。 「ひゃっ!」 「かわいい――充葉ぁ」 クラスの女子が騒ぐような声でジルは喋る。黙って喘いでいたらいいとか、なんてジルらしい言葉。そして、その言葉対して呼吸困難に陥っている自分が惨めだった。 容赦なくジルは僕の乳首を責める。今まで生きてきた中で乳首を自分で弄ったことなんてなかったから、反応してしまう自分に衝撃を受ける。 性感帯は人それぞれだけど、乳首というのは本来、女性の性感帯である。それなのに、乳首を触られて反応してしまうなんて。 どうして。 ジルだからだろうか。なんだか、それですべて片付くような気さえしてきてしまう。 「ひゃっあっ、いや」 反応してしまうのが恥ずかしくて下唇を噛み締め声の流出を避けようとしたが、ジルに軽く頬っぺたを叩かれてしまった。 「駄目だよぉ、充葉ぁん、声、我慢したら楽しくないでしょう」 「いや、いやだ、ジル、やめて」 「はは、可愛いねぇ、充葉ぁん」 愉快に微笑み、身勝手な意見を述べたジルは飽きずに僕の乳首を弄繰り回す。片方を爪で引っ掻き、もう片方を歯で甘噛みする。噛まれた方がジルのグロスがてらてらついた。 「ッ――ひゃ、あっ」 「だから、我慢しちゃダメだって。ねぇ、充葉ぁん。次ね、我慢したら、頬っぺた軽く叩くくらいじゃ済まないよぉ。ねぇ、判ってるのぉ、充葉ぁ」 「ひっ」 僕が今まで見たことのない表情をジルは垣間見せた。表情が凍るというのは、こういう瞬間のことを言うのかも知れない。愉快に微笑んでいたジルは一瞬にして消え、悽惨な笑みを浮かべたジルが姿を現す。ねぇ、一瞬で充葉のことなんか溺れせて殺すことが出来るんだよ、と言われている気分になった。 思わず悲鳴をあげた僕は無意識の内に首を下げていた。その返事を見て気を良くしたジルは愉快な子どもみたいな、僕が見慣れたジルの表情に戻った。そう、そういう充葉は好きだよぉ、ってわざとらしい愛の囁きを耳朶に息がかかる距離で言われている気分になった。 「ひゃ、あっあっん」 「気持ちいぃ、充葉ぁん。ねぇ、気持ちいいでしょう」 「ッ――あっ、ひゃ、あ」 片手で乳首を弄られながら、舌で乳輪を舐められる。次第に乳輪だけでは飽きたのか、僕の薄っぺらい胸板を舐められて、皮膚を噛む。痛いし、噛まれた所は歯型が薄らついていて、それを恍惚に眺めるジルは朦朧として恐怖に支配される僕のから見ると寒気がすること以外の何物でもなかった。 「ふふ、ねぇ、充葉ぁ。やっぱりねぇ、オレの勘は間違ってなかったよぉ。ほらぁん」 ジルは歓喜に満ち溢れた声で喋ると僕の頭の上に無駄にでかい自身のものを見せてきた。同じ男とはいえ、勃起した状態のものを自分以外で見るなんてないから、僕は息を詰まらす。なんでも完璧なジルは下半身も飛び抜けているようだった。 けど、どうして、そんなに喜んでいるんだと、考え、数分前に交わされた会話を思い出す。僕をぬか喜びされた、あの会話。 「ねぇ、充葉ぁ。完勃ちだよぉ。オレぇ、こんなの初めてぇ。ねぇ、充葉ぁん、舐めてよ」 僕の口に無理やりペニスを近づける。青臭い鼻に来る匂いに思わず嗚咽が漏れるが、ジルは気に留めることすらしない。 それどころか「ああ、この体勢だからぁん、舐めにくいのぉ」なんて言ってみせて、机の上に寝転ばせた僕の身体を抱きかかえ、床に膝をつかせて立たすと、自身は僕の椅子に腰かけ、股を開いた。 「いや、だ。無理、だ、ジル」 「無理じゃないよぉ、充葉ぁ」 「無理、だ、よ、」 「無理じゃないよぉ。やってもみないのに、無理なんていう、充葉、久しぶりに見たけどぉ、駄目」 容赦なくジルは僕の後頭部を掴む、自身のペニスに僕の顔を押し当てた。 「口、開かないとぉ、このままだけど、いいのぉ?」 「いや」 「嫌じゃないでしょぉ充葉ぁ。ねぇ、充葉ぁ。舐めてくれたら充葉のも気持ちよくしてあげるからぁん。ねぇ、充葉ぁ」 「いや、だ。もう、帰ろう、ジル」 「聞き分けの悪い子は嫌だよぉ」 鼻につく悪臭の中で口を開き抵抗してみせたけど、ジルには通用しないみたいで、さっきまで嫌になるくらい弄られて、敏感になっている乳首を思いっきり抓られる。 「あぁあああっ! ひゃ、あっ、もう、や!」 「あは、気持ち良い? 充葉ぁ」 「いや、痛い、やめっひゃッ――」 「嘘つきだなぁ、充葉ぁ」 「ちがっ! いやっひゃっあぁッやめ、いだ、いだい」 「大丈夫だよぉ。充葉が嘘つきなことくらいぃ、俺が、一番知っているからねぇ」 なにを言っているんだ、と思いながらも、ジルに言われた言葉が胸に突き刺さる。ジルの体液で汚れた眼鏡の隙間から、ジルを見ると、あの、体中をスキャンされている感覚に陥る双眸は変わらず、僕を見ていた。 「ひゃぁっ、じ、る」 「ねぇ、充葉ぁ気持ちいいでしょう。もっと、気持ちいいことしてあげるから、ねぇ」 止めとばかりにジルは乳首を思いっきり抓った。僕は身体を飛びあげてしまう。 いやだ怖い。自分の身体が自分のモノじゃないみたいに感じてしまう。触られたせいで、敏感になってしまっているのもあるけれど、それ以上に拭えないのが、恐怖だった。長年、本当に、嫌というほど、ジルと一緒にいたけれど、今みたいな畏怖を味わうのは初めてだった。肌に突き刺さるような……―― 「あ! あっはッや、やだっ」 「ふふふ、ねぇ、充葉ぁ。俺ねぇ、知らなかったよ。充葉がこんなに淫乱だったなんてねぇ」 「いや、いやいや、嘘、だ!」 「大丈夫、内緒にしておいてあげるからねぇ、充葉ぁ」 嘘だ、と信じたかったけどパンツの中の違和感は嘘じゃないといっていて。 しっとりとする股下湿り具合。生温かい汁が僕の足首をつたう。射精させられるよりは、マシ、だけど。信じがたいこと、だ。 「漏らしちゃったねぇ、充葉ぁ、可愛いよ、ふふ」 ジルの決定打が降り注ぐ。目をそらしたい現実に四方を塞がれた僕は、唖然とするしかなかった。 「ねぇ、充葉ぁ。な、め、てぇ」 僕はゆっくり口を開いた。 → |