白く大きな飾りボタンが可愛いジャケットを羽織って僕は外に出た。
今日はトラが卒業論文を提出したお祝いに、買い物に行こうって約束していたから、気分はルンルン、お顔がゆるんで佐治くんあたりに(佐治くんはトラと僕の高校時代からのお友達です)「間抜けな顔だなぁ。プークスクス」と笑われてしまうだろう。笑いながら僕の頬っぺたを餅みたいに伸ばす佐治くんの姿が安易に想像できて、くすくすと笑みを零してしまった。お家から直接一緒に行けば良いんだけど、昨晩まで大学の研究室に泊まり込みだったトラは大学から出発するみたい。夜中にトラが僕達の家に帰ってこないのは、ひっそりと昔のことを思い出して、心が搾り出されるけど、憂鬱になって勝手に落ち込んじゃ駄目だ! と首を振る。気分を切り替えるみたいに、ポケットから鍵を取り出した。僕らのお家の鍵はトラが特製で拵えてくれたものだ。はじめは簡素な普通の鍵だったのに、業者に発注してくれて、レトロチックな鍵へ生まれかわった。初めてトラにこの鍵を渡された時は死んじゃうかと思うくらい嬉しくて、その日の晩は子どもみたいに抱き締めて寝た記憶がある。僕みたいな人間を愛してくれているんだって、わかって、物がもつ力は凄い! って思ったんだ。それに依存しちゃ駄目だけど、トラから贈られるものは吐息の一つであっても嬉しい。また、へらって間抜けな顔で扉をしめて、僕は駆け足でトラのもとへ向かった。
あ、違うや。駆け足だと転けるから止めなさい、って言われてたから、ひっそりと歩いた。
こんな光景から見てもわかるように僕は浮かれまくりで、まさか、トラがあんなこと企んでいるなんて知りもしなかった。







「んっ……ぁ」

「我慢しろよ、帝」


ニヤニヤ笑いながら、二日ぶりに見るトラはとても楽しそうだった。
待ち合わせ場所に着くなり、トラは僕の手を引っ張り路地裏へと連れ込んだ。横になったまま、放置されたゴミ箱が喧騒とした世界から切り離された空間を演出していて、ごくりと生唾を飲んだ。何をするんだろう? と思っていたら、口付けをされた。
ぐちゅぐちゅと唾液が交じりあって、飲みきれなかった液体が口角から滴れる。トラの長い舌は僕の咥内で蹂躙し意識を奪っていく。あっけないほど容易く僕の身体の力は奪いとられ、膝ががくりと落ちた。
コートの中に指が這わされる。太股をなぞり、ズボンをおろすと下着の中に指先が侵入した。やだよ、トラ、こんな場所でいきなり、どうしちゃったのって思いながら身体をトラへ委ねる。巧みな指使いは僕の陰茎にやわらかく触れた。指腹でなぞるように、付け根から、亀頭まであがられ、尿道口に爪を割り込ませられる。「ひゃぁん」と情けない喘ぎ声が漏れてしまう。膝を笑わせ、手のひらを震わせながらトラの腕にしがみ付く。ゆるく勃起した陰茎を確認すると、楽しそうにトラは笑窪を作り、後孔へと手を回した。
我慢汁を利用して、収縮する襞を無視するように滑り込んでくる。
「ぁふぁ」
僕の後孔になにか詰め込まれた。な、なに!? とトラを見てめると満足気に指が後孔から抜けていき、現在に至。




「な、にふぁ、入れたのぉ」
「オイオイ。普通にしてろよなァ。バレるぜ」

玩具でも挿入されたのかなぁって思っていたんだけど、違うみたい。身体がセックスの最中のように火照ってきて、衣服が揺れるたびに脳天を突き抜けるような快楽が走り去る。


「ふっあ、やぁ、なに、これ」
「媚薬だよ。ビヤク。佐治から貰ったやつなァ」
「さ、佐治くんからぁ」
「アア。効くんじゃね。アイツのだったら」


確かに佐治くんから与えられた媚薬だったら、この身を引き裂かれそうな快楽も僕は納得がいく。佐治くんはそういう玩具とか媚薬とか、エッチ関連の品物に対し不思議なくらいよく持っているし、知識がある。トラに渡したってことは、副作用がない安全性が確実なものだけど、神経をむき出しにしたような快楽はそれだけで、悪のような気がした。


「ホラ、ちゃんと歩きなさい」
「ひっ!」

背中をたたかれ、叩かれた先から波のように電流が広がっていく。
信号は青になり、一斉に皆が動きだす。僕は涙と喘ぎ声を耐えるように、歯を噛み締めながら、ゆっくりと動いた。
雑踏にまぎれこんでしまえば大丈夫。そう言い聞かせながら、歩いた。けど、トラが……ーー


「皆が帝を見てるかもなァ。お前の感じてる姿。んなに頬を赤らめてたら誰だって見抜けるからよォ」
「ひっ、うっぁ……ぁ、ぁ。言わないでぇ。そんなこ、と」
「お前が我慢すれば良い話、だろう?」
「うっひっ、あ、も、だめ」


トラに言われた途端、全員の瞳が突き刺さったみたいだ。大丈夫、大丈夫って言い聞かせるけど、僕は真横を通り抜ける人の吐息の音とか。普段なら、整った顔つきから目立つ、トラにしか突き刺さらない視線も僕に全部、刺さりくるみたい。視線に身体を犯されている。気を抜けば、ずちゅっとイってしまいそうだよ。


「ホラ、信号。渡りきらなくちゃ、引かれちまうぞ」
「ふっあ、ぁ、ごめんなさい。うっぁ」


指先を引かれる。首輪をかけられたみたいで、犬になった気分だ。咥内に溢れだした涎が滴れてくる。拭きたいのに、出来なくて涎を垂らしながら歩く。涙もついでに溢れてきた。駄目だよ。トラと歩いているのにトラが変な奴と歩いているっていう不名誉なことを背負わされちゃうよ。しっかり、しなきゃ。いけないのに、朦朧とし敏感な身体はそれを許さない。


なんとか信号を渡りきって、肩で息をする僕をトラは撫でた。

「良く頑張ったな」
「ぁっあ、ひゃ、ぁ、トラ」
「だから、もうちょっと頑張ろうぜ」


言われた言葉を上手に咀嚼出来ず、トラを眺めた。






手を引っ張られ、人気が少ない公園まで連れてこられた。どうせだったら、ホテルに案内してくれたら良かったのに、と疼く熱に正直な僕は思ってしまう。迷惑かけているのは僕なのに、馬鹿。

「ホラよ。帝」


トラは僕にそう告げ、自動販売機で買ったホットミルクを渡してくれた。敏感になってしまった身体では、渡された飲み物が理解出来なかった。お家でゆっくりしたいなら、早く帰ろうよ、と愚図って子どもみたいに泣き喚いてしまいたい。けど僕にそんな権利があるわけでもなく、ベンチに腰掛け、ホットミルクを飲んだ。


「トラぁ」
「なんだ、帝、美味しいか」
「お、美味しいけどぉ」

身体を交差させながら、もじもじする。ホットミルクを飲んだことにより、身体が発汗している。どうすれば良いの。わからないよぉ。

「トラ、ごめんなさい」
「謝るなよ。なぁ、ナニして欲しいんだ」
「ううっ……」

涙で視界がいっぱいになってきて、トラが僕になにをして欲しいか悟る。


「エッチしたいです。もう我慢出来ないよぉ。僕の身体トラでいっぱいにしてぇ」


服の切れ端を引っ張りながら、トラにねだる。満足そうに歯を輝かせながら、トラは僕の手を引いた。ホットミルクは飲み干していたので、どこかへ捨てさせて欲しいと言うと、自動販売機の横に設置されてあったゴミ箱へ投げてくれた。野球していたこともないのに、百発百中なんだ。凄いよね。
なんて悠長なことを考えられている時間じゃないこてにトラが次に放つ言葉で理解する。


「ションベンしろよ。セックスして欲しかったらなァ」


告げられた言葉の意味を疑う。僕は朦朧としながら首を傾げた。



「聞こえなかったか。帝。ションベンしてみせろよ」

命令を下すように宣告した。周囲を見渡す。今は公園に設置された公衆トイレの影に位置された場所に僕達は立っている。枯葉がついている木々がかさかさ揺れ、少し先には閑静な住宅街が続いている。人一人いないが、僕らがいるのは紛れもない外だった。室内ならば、焦らされた状態で僕は喜んで首を縦に振っていただろう。だって、トラに言われたことは絶対なんだ。僕には最初から選択肢なんて残されていない。こんな素晴らしいトラに愛されているんだから。僕に出来ることはやりたい。


「わ、わかったよ」

身体も限界を迎えていたので、ズボンに手をかけ、ファスナーに手をかけた。よく考えればオジサンとかがしている立ちションというやつと、なんら変わりないじゃないか。と思ったけど視線が突き刺さり羞恥に縛られてしまう。
トラには指一本たりとも触れられていないのに、全身を舌で舐められているようだ。
ハァハァと息を荒立てる。限界、なんだ。
露出された陰茎に触れる。薬のせいで勃起した陰茎は手を触れるだけで達してしまいそうだった。精液が尿道から一緒に出てきそうだよ。


「と、トラぁ」
「なんだ。早くしなさい」
「イっちゃいそうだよぉ」

顔を真っ赤にしながら、告げる。


「俺はどっちでも良いけどなァ。ただ、精液が明日、いろんな奴に見つかっちまうかもなァ」
「うっひっあっ」
「それでも良いのかァ?」

容赦なくトラは責め立てる。我慢するなって言わないのが、僕を迷わせる。どうしようって悩んでいる間に、尿意と射精感が込み上げてきた。ホットミルクの理由を今更悟る。
陰茎を刺激するように、裏筋を触り、解放する。おしっこする時のように、亀頭を触り、勢いよく射精した。



「ひゃあぁっぁぁ!」
「なんだ、結局イっちまったのか。恥ずかしい奴だなぁ」
「ひっあっひゃあぁ!! ご、ごめんなさい。恥ずかしい奴ですぅ、ぁひゅっぁ!」


続いて尿道を通り、おしっこが出てくる。黄金の液はチョロチョロと飛び出し、精液の上に落下した。草木が白濁とおしっこにより、汚れる。



「はぁっはぁっぁ」


言われたことが出来たので肩の力を抜く。地面に倒れこんでしまった。身体の中に今まで味わったことがない電流が走り抜ける。


「はぁっあ、トラ、お願い。僕、ちゃんと出来たからぁん」
「ハハ。確かになぁ。良い子だ」
「ふへ、あ、ひゃっあ、トラぁ」
「なんだァ」
「お、お願い。僕、もう駄目だよ。耐えられないの。ご、ご褒美ちょうだい?」


顔を傾げ、縋るようにトラの胸板に埋もれる。
にやりと僕の頭を撫でながらトラは僕を抱えてくれた。


「とりあえずソコのトイレでするぞ」
「う、うん!」


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