充葉は目隠しされた状態で、ベッドの上で拘束される。一日だけで終了すると思われた監禁ごっこだが、充葉の予想を超え、二日目に突入した。ジルの話によると「母さんねぇん、親父のぉ、出張へ連れていかれてるのぉん」ということだった。鼓膜へその言葉が届いた時、充葉は唾を飲み込み、脳内に流れたいやな予感を払拭するように「ジ、ジル」と震えた声を吐き出した。

「残念だったねぇん、充葉ぁん帰れると思ったんでしょう?」
「あ、ああ。帰してくれ」
「だめぇん。オレが遊べる期間がこんなにいっぱいあるのにぃ。それとも充葉はオレを放置して一人で帰るのぉ? 可哀想なオレをぉ、置いてぇ。ああ、本当にぃ。充葉ぁん」
「ジ、ジル……帰らないから」
「ふふ。やっぱり充葉だねぇん」

ジルは充葉の頬に凶器のような爪を当てるようにして触る。血液がゆっくりと落下していき、遊ぶ準備が出来たねぇといわれているようだった。

「今日はコレを使うねぇ」
「コレって……」

コレと略されても充葉には、ジルが指さすものが、なんなのか理解できなかった。何しろ、目隠しをされているのだ。真っ暗な視界を遮られ、見ず知らずの玩具を使用されることに、背筋を震わす。両腕を頭の上でひとまとめにされ、ベッドに手錠ごと拘束された状態では、後ろへ下がることすら許されず、ジルには見えない不安そうな双眸を揺らしながらジルの言葉を待った。

「あのねぇ、ボールギャグ使おうか迷ったんだけどねぇ。今日のオレはぁん、充葉の舌を犯したい気分なのぉん」

うふ、というような声色で語る。
頬にゴムの感触が伝わり、充葉は震えを起こす。昨日、一日手堅く犯され身体は始めから限界を迎えていた。数時間の睡眠など、意味がない。男であり体力は平均以上にあると自負していたが、全身を使用しての性行為で充葉に押しかかる負担は相当のものだった。何しろ、本来利用しないアナルを酷使して行うのだから。

「だからねぇん、開口器を使うことにしたんだよぉん」
「開口器って……あの、歯医者で使う?」
「ふふふぅ、さすがぁ、充葉ぁん博識だねぇ。そうだよぉ。これはぁん、顔に取り付けるタイプだからギャグととっても似てるんだぁ」
「使われるとどうなるの?」
「どんなに激しく抵抗して口を閉じようと思ってもぉん、充葉の口内は丸見えなんだよぉん。オレからぁ」

ジルはそう告げると脅える充葉の顔を掴み、自分へと突き出すように上げさす。銅が鍍金された冷たい感触が充葉の肌の間を圧迫する。口内を強制的にジルの手によって開かされ、歯と歯と間に強引に割り込ませる。

「これでぇん、完璧だねぇ」

開口器を装着した充葉の姿をジルは眺めた。普段、地味で堅物な委員長タイプの充葉から醸し出される淫靡な雰囲気は、ジルしか知らないものだ。もっとも、充葉以外で勃起しないジルにとって充葉からだされる色気は当然のものとして受け止められたが。

「ふぁぁん! あ、ふぁああ!」

何か、喋ろうと充葉は必至に訴えるが、開口器に邪魔され届かない。ジルは両手で包み込むように充葉の顔を持ち上げる。じっくりと視姦するように咥内を覗く。普段、咥内を覗かれることなどない充葉は羞恥で下半身を反応させた。
充葉にとって誰に覗かれているのかが重要で、あの何もかも美しい人間が自分のすべてを覗き込んでいるのかと想像するだけで、背筋から、ぞわぞわと、快楽が登ってきた。
陰茎がゆっくりと勃起する様子が、自分で判り隠したいが、全裸で拘束された状態では隠す方法はなかった。
くすりと優雅に笑う、ジルが憎らしい。

「ふぁあぁん、ふぁああぁあ」
「何言っているか判らないよぉん」

ジルはゆっくりと、弦弾きの奏者のように美しい指を伸ばし、狂気のような爪を労わりながら、充葉の舌に触れた。

「ふぁ!」

びくんと身体を震わす。だらんと犬のように舌を出した充葉の情けない恰好を嘲笑うように、ジルはそのまま、人差し指と中指で充葉の舌を挟んだ。ぐにぐにと、上下に舌を動かす。
引っ張られる感覚に充葉は苦しみながらも、自身のペニスが勃起していく様子がわかる。これをジルに見られているのかと考えるだけで充葉は泣いてしまいそうになった。
舌の下を指先で突かれ、思わず、頭を引っ込める。

「ふぁあああ、あ!」

口を閉じ発しようとした言葉が出てこない。

「はぁん、充葉ぁん。勃起した状態でなにを言っているのぉん」
「ふぁああああ! あ!」

身体の自由が奪われ言葉を発せないことは充葉の羞恥心やプライドを煽り、双眸からは涙が流れた。いつも、ジルになけなしの抵抗を見せることが出来るのは言葉である。それを奪われてしまえば、素直に反応を示す身体だけがすべてとなってしまう。

「ペニスもぉん、触ってぇあげるからねぇん」

ジルは陽気に笑い、充葉の陰茎へと触れた。勃起し、男であることを主張する充葉のペニスはジルからしてみれば可愛らしいものだった。童貞丸出しの、使い込まれていない、自分専用の玩具を愛しく触る。舌を触られただけだというのに、随分と判り易い主張をしているではないか。性的なことに無知な充葉が、身体を自分好みに改造され、今、眼前で、乱れている。掻き立てられる、興奮にジルは笑いが止まらなかった。もちろん、その笑い声は目隠しされた充葉の不安を増長しているのは言うまでもない。

「ふぁあ、ぁああふああ!」
「我慢汁でいっぱいだねぇ。吐き出しても良いんだよぉん、充葉のぉん、精液」
「ふぁああ、あふぁあぁふぁあ!」
「判るでしょぉん。身体の奥底からぁん、充葉の快楽はぁ、吐き出されたくてぇ、限界なのぉん。素直になってあげなよぉん。今さら、充葉がぁんオレになにを隠すっていうのぉん」
「ああぁふぁああ、ふぁああ!」


徹底的なジルの攻め立てに充葉は、どくんと腰を動かし、静かに射精した。
吐き出された精液はジルの手のひらに付着し、ジルは計画通りに運んだことに対し、再び笑う。

「充葉ぁん。充葉はぁん、自分のぉん、精液の味って知ってるぅ?」
「ふぁ!?」


ジルの言葉に充葉は全力で頭を振る。脳内に残る可能性を全力で振り切るように。しかし、ジルはそんな充葉の願望など気にもかけず、咥内へ精液がべったりついた指先を伸ばした。

「食べてぇん。充葉のぉん、精液だよぉ、とってもぉん、美味しいんだからぁん」

恍惚とした表情でジルは嫌がる充葉の咥内へ無理やり精液を突っ込み、舐めるように指示する。
ジルに命じられ逃げられないという状態を作りだされたこと、ずっと舌を出した状態で喉の渇きが限界を迎えていたことも後押しになり、充葉を脅えたあどけない舌使いでジルの指を舐める。
上下で挟まれまるでペニスを撫でるように指先をずらされる。動かされていると、ジルの爪が頬肉に当たり、充葉は鈍い痛みに耐えた。
青臭い鼻につく精液の香りはジルが告げたようにけして美味しくない。ジルに命じられなかったら誰が舐めるかと思いながらも「ふふふ、良い子だよぉん」というジルの声を聞くだけで、舌を無意識に動かしてしまう。べろべろと指先を舐める。

「ねぇ、充葉ぁん、やっぱりぃ、美味しかったでしょう」

ジルがつけた精液を舐めきった充葉へ告げる。
乱雑な手つきで目隠しを外し、充葉へ綺麗になった指先を見せる。

「良く出来たねぇん。本当に犬になったみたいだったよぉん」
「ふぁああああ!」
「ふぁん、外して欲しいぃ? 欲しいよねぇん。これ外したらぁん、充葉がぁオレの前でオシッコしてくれるっていうなら外しても良いよぉん」

まさかの展開で充葉は硬直する。
ようやく見えたジルの双眸を見つめる。嘘はつかない男だ。そう考えると、頷くまで開口器を外してもらえることはないのだろう。
充葉は、ゆっくりと首を下げた。

「ふふ、良い子だねぇん。充葉ぁん」




にやりと笑うジルの顔を見て、充葉は首を下げたことに対して後悔しはじめていた。



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