傷を負った負傷者一名。
傷と言っても紙で切りつけた浅いものが指先についただけのものだ。透がいつものように、漫画を読もうと本を手にとり、読んでいたのだが、誤って切り付けてしまった。
いっ
珍しく声が漏れる。表情が他者より表に出にくい顔が関係しているのか、痛さのあまり漏れた肉声も抑揚がない平坦としたものだった。舐めておけば治るかと、呆然と眺めていた透の手を取ったのは祐樹だった。恋人が痛さを漏らす声に駆けつけ、血が滲む手のひらをとった。透から見ればなんとも優雅な動きで優雅は口元に指を運んだ。鈍い痛みが走り、唾が傷口からじわじわと侵入した。祐樹に舐められた、唾を付着させられた瞬間から鈍い痛みは悦楽へと変化を遂げた。怪我をして良かった、とさえ感じてしまう。祐樹に構ってもらえるなら、多少の痛みに関わらず怪我を負っても良い。陸上選手という宿命からか、祐樹は家を空けることが多い。やれ合宿やら、やれ、遠征やら。その度に家で縮こまって待つ日々だ。もし事故にあい、両足を切断されれば介護の為に祐樹はずっと一緒に居てくれるかも知れない。だとしたら、足なんかいらなかった。それで良い。怪我に敏感な祐樹なら尚のことである。


「大丈夫、透」
「平気」
「待っててね、今、消毒液持ってくるから」


大袈裟だなぁこいつ、と思いながら立ち上がった祐樹の腕を取った。
怪我をした時、祐樹はいつもより優しい。もっと甘えていたいと思う。先ほどのように、両足を切断してしまいたいと。けれどしないのは、怪我は祐樹にとって良いものではないと理解しているからだ。文章を書くことしか才能がない自分だが、それくらい理解していた。祐樹の背中に隠れる大量の傷痕がすべてを物語っていた。煙草を押しつけられた跡を笑顔で平気そうなふりをして語る愛しい人間に対して怪我をしたことを申告し、構って貰うなどするべきことではない。構われていたい、優しくしてもらいたい。ずっと一緒にいて欲しい。けれど、自分の欲望を押しつけて、祐樹が辛い表情を覗かせることを招きたくない。思うだけなら自由だと、得意気になり、無口な表情を貫き、雄弁な舌を脳内で動かす。


「大丈夫、だか、らぁ」
「心配だよ」
「それより、セックスしたい」


こういう時、透は無性に祐樹へ奉仕したくなる。普段、完璧な装いで生きている人間の隙間を見付け、埋めたい欲望が沸きだす。祐樹のためだという押し付けがましいことは思わない。自分が、埋める機会を与えられ、望むから、願うのだ。


「俺は別にいいけど」
「じゃあ、しよう」
「ベッド行く?」
「ここで良い」
「けど、ここじゃ、透の負担が大きくなるよ」
「大丈夫だから」


生唾を飲み込み、祐樹の胸ぐらを掴むと顔を寄せた。いつも祐樹からのキスが多く透のキスは何時まで経っても下手くそだった。勢い余って、前歯があたるが気にせず、舌を潜りこませようとする。祐樹は笑いながら、余裕綽々とし、手慣れた口技で透のキスから主導権を握り返す。気持ち良くしたいから、祐樹が握ったら意味がないのに! と透は思いながら、祐樹の舌技に身体の力を抜かれていく。歯茎が薄く舐められ、息継ぎの合間は絶妙にとられた。酸素が薄くなり、舌を絡めあうと熱が脳内を締め上げる。


「はぁっはぁ……祐樹ぃ」
「気持ち良かった? 俺は気持ち良かったよ」
「俺も、ぉ」


祐樹はこうして透とキスしている時の方がセックスしているより、いくらも意義があるものだと受け取れる事が多々あった。呼吸を感じ合い、目線を交わしながら、一番気持ち良いを受け取る。脳内に唾液が落ちてくるようで、一番、透を自分の傍で感じられた。本当はずっと傍にいたい。移りゆく不安な後ろ姿さえ自分に見せないのであれば、合宿にだって強引に連れていく。こんな気持ちに俺がなっていると透は気付かないだろうと祐樹は透の頬を撫でた。
衣服を優しく脱がしていく。貧相だと称される痩せ細った身体が祐樹にとってなにより愛しかった。薄い胸板に顔を埋め、舌を心臓に向かって這わす。心音を感じると、乳首を舌先で撫でてやる。敏感だが、我慢強い意固地な身体は声を押さえ、乳輪を舐める祐樹の顔を覗いた。どこまでも澄んでいる眸は祐樹に落ち、乳首を甘く噛む。


「んっ……」


空いていた、もう片方の乳首へ手を伸ばし、捻ってやると腰を飛び跳ねさせた。呼吸をもっと聞いていたくて、耳を寄せるように上へとあがっていき、再びキスをする。


「ぁ……ん、祐樹、俺が、フェラする」
「いいよ。今日は」
「けど気持ち良くなって欲しいのに……」
「今日は後ろを使って気持ち良くしてよ」


祐樹は提案するかのように、透の窄まりに指をのばした。ぷつりと入り込む指先に、腰を震わした透は祐樹が気持ち良いなら、なんだって良いと顔を下げた。
提案を飲んだ透に気分を良くし、祐樹は透に口付けをし、ポケットの中からローションを取り出した。まだ解されておらず堅くすべてを拒否しているような窄まりに指を一歩侵入させる。

「ひっ」

漏れてしまった声に透は顔を赤らめながら、内壁を掻き回される感覚に耐える。核心が得られない、空中に浮かばされているような慣らす行為は何度経験しても慣れない。
祐樹はローションの滑りを借り、二本目を少々強引に挿入した。くちゃくちゃと粘着性が絡まり合う音を覗かせながら、二本の指は透の後孔を犯す。



「はっ、ぁっ……」
「ちょっと緩くなってきたなぁ」
「ん……ぁっ」

指先で引っ掛けるように浅い所にあるシコリを触ると透は喘ぎ声をあげた。


「祐樹、も、大丈夫」
「そう? じゃあお願いしようかな。ね、透、跨がって。俺の上に」

前座の行為にて漏れた涙を拭いながら、透は敏感になった身体を起き上がらす。下着から顔をあらわした、祐樹の一物に唾を咀嚼すると、自身の後孔の皮に指を挿入した。第一間接に引っ掛け、収縮を繰り返す襞を無理矢理、広げる。立て膝の体制をとり、祐樹の上に跨ぐと、肉棒と後孔をかち合わせる。


「んっぁ……ぁ、んっあ」「そう、亀頭が通ったから後は楽だからね」


体重を頼りにして、ゆっくりと腰を下ろしていく。慣らされたといえ、内壁が肉棒に当たるたびに、包み込むように密着して、びくびくと胎内を震わした。


「くっ……うっぁ、んっぁ」

祐樹が気持ち良いならばと、沈んであく。頬は紅潮して真っ赤だ。双眼からは過ぎた快楽がもたらした涙が滲んでいる。


「ひっあ、ぁぁああ!!!」


亀頭を越え、一気に落下する。普段届かないような秘境へ辿り着くのが騎乗位の嫌な所だと悪態を心の中で透はつきながら、耐えた。

「どうしたの? 動かないと俺は気持ちよくならないよ」

この野郎と内心で睨みながら、愛しさ故に腰を動かす。
後孔を締め付けることを意識すると密着した肉棒を先程より近くに感じられた。しかし、上下に精一杯の動きを見せると祐樹の肉棒は波打つように膨張して、快楽を与えられているのだとわかると笑みがこぼれる。


「はぁっ、あっも、祐樹」
「良いよ、透。俺もイっちゃいそう」
「ひっひっあっああ!!」

触られていないのにはち切れそうな透の陰茎が跳ねる。
後孔をいっぱいに満たし皮を引き裂く祐樹の肉棒はもう少しで絶頂を迎えそうだと透は動きを早くした。


「あっひゃあっ、祐樹、イこう、よ、イこう」
「うんっーーいいね」
「あっ、ひゃぁぁぁあああっ!」

祐樹が射精すると共に、透め達した。自分が指導権を握りながら、祐樹を少しでも快楽へ導いている時に聞こえる擦れた男らしい声色が好きで堪らなかった。
射精したせいで、ぐったりした身体を祐樹に任す。指先の傷痕を見ると、すっかり渇き自己修復をはじめる予兆がある。丈夫だとにやつくと、妙な表情を祐樹に注意された。一方で祐樹は達した透の頬に触れ、キスをした。同時に緩やかに視線をずらし傷痕を覗く。治りつつある傷痕に安堵の息を吐き出した。セックスをすることで打ち消せるものを祐樹は知っていた。それは不安だ。透が自分を誘ってきた理由も、祐樹は透本人以上に理解していた。透はけして自分の不安を溶かすためだとは言わないだろうが、得られる快楽は確かに祐樹の心を楽にした。


「大好きだよ、透」
「俺も」


繋がった状態で祐樹は透を抱き締める。まるで、ずっと一緒に居ようというように。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -