07異空間ともいえる光景は担任が入ってきたことにより、破られた。男同士で抱きついている様子を見るや否や「またオーデルか。いい加減にしなさい」とあろうことかジルの頭を日誌で叩いた。生活指導を兼ねている担任はジルの両親と同級生だったという事もあり、彼に強気だ。圧倒的な支配からも解放されていて僕は、この人を見る度に教師という職業につく人間を尊敬する。 引き剥がされた僕は担任に席へ着くよう命じられ、椅子を引く。ジルは横目で僕を見つめながら、自分の席へと着いた。誘惑するような双眸が鼓動を早くする。 「では、ホームルームを始める」 担任の一言で僕らは日常へと戻っていった。 配られるプリントにはセンターへの進めや、申し込み日が記載されてあり、皆が少しだけ憂鬱な気分になった。受験で追い込まれている人間が多い分、ジルのような、存在を見ると縋るように焦がれたくなるのかも知れない。僕はずり落ちた眼鏡を上げながら、そう思った。 「解散。おつかれさん、明日も根詰めすぎないように頑張れよ」 チャイムと共に担任が教室から出て行った。すると、ジルに群がる人間が増える。僕は暫くその様子を眺めていたが、もう良いか、と思い鞄を畳んだ。 椅子を片づけ、教室を出る。 ジルが一目散に教室を出て行かなかったので帰宅を急ぐ用事がないのなら、一緒に下校するのかと思って待っていたが無駄だったようだ。最近できた習慣なのだが、不意打ちで取り止めにするのは好い加減、勘弁して欲しいと溜息を吐いていると、後ろから肩を叩かれた。 「先に帰るなんて酷いなぁ、充葉ぁん」 訂正。 肩を叩かれたんじゃない。肩に指を食い込まされたのだ。ぎりぃと痛む。 「ごめん、今日はもう良いのかと思って」 「そんなわけないじゃない。ああ、それとも、こんな醜いオレとは充葉ぁんは帰りたくないの?」 「まさか。そんな訳、ないよ」 「だよねぇん、だって充葉だもぉん」 ふふふとジル特有の笑いを見せながら廊下を一緒に歩く。化粧という仮面が解かれたジルは注目を一気に浴び、頬を染める人間が連発した。 彼の魅力と云うのは性別をやはり超えるのかと実感した瞬間である。 肩を寄せれれながら、そんなジルに特別扱いされる自分という存在がとても誇らしかった。駄目な感情だと判っているが、仕方ないことだ。どうせ、一番ではない。そんなこと、知っているさ。諦めているに近いかも知れない。 だけど、母親を覗けば僕はジルの中で一番なんだ。彼を満たせるのも僕しかいないんだ。限りない愛で、抱いてやりたい。 ああ、少し目尻が熱い。 このことを考え出すと、いつも泣きそうになってしまう。高校三年生にもなって情けないな。 「余計なこと、考えてるでしょう、充葉ぁ」 「違うよ。余計なことなんかじゃない。本来、考えなきゃいけないことを、考えていただけだよ」 「それが、下らないことだよ、充葉ぁん。気にしなくて良いんだよ」 「……だね。お前からすれば」 「充葉からしてもだよ」 全部見透かされている気分に陥りながら、肩に食い込んだ指先に触れる。 「どうしたのぉ、充葉ぁ?」 「きて」 学校行事が映し出されている電光掲示板を抜け、大理石のアーチを通り抜けると裏門に入る。 右に行って螺旋階段を上った先に使用頻度が低いトイレが設置されていた。六月だったかな、謎の故障騒ぎがあって、更に利用されなくなった場所だ。 トイレにジルと二人でいる。 オフィーリアのトイレは業者の手によって清潔を保たれているとはいえ、ジルはあまり好ましくないのか、不機嫌な顔つきをしている。 個室へジルを案内すると、僕は便座へと腰掛けてくれるよう頼む。 「汚いよぉん、充葉ぁん」 「いいから、座って」 「しょうがないなぁ。充葉はぁん、本当にぃ、我儘さんなんだからぁ」 僕は生唾を咀嚼して、早まる心臓に胸を当てる。ジルの美しい顔が視界に入らないよう、眼鏡を取り、鞄の中に終う。 「なにしてくれるのぉ、充葉ぁん」 「別に、舐めてあげるだけ」 「ふふ、充葉がぁん、欲しくなったのぉ」 「違うけど。ただ今日のジルは欲しいのかんぁって思っただけ」 本当は僕がジルにセックスをしてあげたくなったっていうのが本音だけど喋るのが恥かしいので、嘘を言う。どうせ、嘘なんてジルにはお見通しなのだ。悟れ。 「そっかぁ。充葉ぁんは本当に可愛いねぇ」 「目、腐ってるんじゃない」 「酷いぃ、充葉ったらぁん」 「酷くないよ。ちょっと、黙って」 制服のジッパーを外し、ジルの下着に触れる。いつも思うけど、下着も機能性のないのばかり着用しているなお前。 下着を手でずらす。以前、ネットで検索していた時は口で脱がすと良いとか書いてあったけど、めんどくさいから、行わない。 黒ずんだ陰茎が姿を表す。僕のと比べると惨めな気持ちになる陰茎へ舌を這わし、べろぉと舐める。 陰毛を食べる勢いで、陰嚢を口の中へ含み、転がす。鼻腔を掠る噎せ返る様な匂いに、嗚咽が込み上げてくるが、これが、ジルのものだと思うと堪えられた。 そうでなければ、誰が男のペニスなど好んで舐めるものか。 「んっ――ジル」 「ぁああん、充葉ぁん、良い感じだよ。もっと、そこ、食べてぇ」 「はふ、んっ――ぁ」 唾液と陰茎の味が混じり合い、口角から涎を垂れ流した。 ジルが良い子だねぇと撫でた手のひらが優しく感じた。 |