「じゃあボンゴレ、行きますよ」 「処刑台に?」 「…生々しいですね、まったく」 もう、と言いながら大通りをぶらりぶらりと歩く。朝ご飯美味かったなーなんて考えながら。だいたい、なんで殺されると知っていて行かなくちゃいけないんだ。お人好しもここまでくると救えねえな、とリボーンが言うような皮肉が頭をよぎった。 「えっと、今日、歩けばつきますよ」 「ちかっ」 「ですよね、なんでうちのファミリーが仲介しなけりゃいけないんでしょう」 「…おまえ、どこの」 「…壊滅寸前のカンターレファミリーです」 知らないファミリー名だった。聞けば、白羽の矢が立った理由はただ単にボンゴレ邸に近いからというどうでもいい理由だった。同情をしてしまった。そんなことでボスが捕われているなんてあまりにも、…酷い、と言ってもこの状況を作っているのは自分。すまない、という思いしか出て来ない。 「で、相手は?」 「…最近、勢力を付け始めてきたファミリーです」 「あとは?」 「禁則事項です」 ぶらりぶらり、と歩く彼女はどうみても一般人にしか見えない。でもそこには計り知れない苦労、不安があるのだろう。なんで、俺が。 「ボンゴレ、飛びますよ」 「え」 「飛べるでしょう?死ぬ気の炎で」 「まあ、そうだけど」 「私も飛べますから!」 とびまーす、と言いながら彼女は飛び立った。大空の、炎だった。え、一緒だとか思いながらその後を追う。飛ぶのはやはり速くて楽だ。彼女はひゅんひゅんと建物に足をついて飛んでいる。…疲れないのか。 「疲れないのか」 「もう、慣れ、まし、たっ!」 「息、あがってるけど」 「だい、じょ、ぶっ、でっ、すっ」 建物を蹴ってるからかうまく話せないらしい。…こっちがいらいらしてきた。もうこうなったら担いで行ってやろうか、と思ったよりも早く、体が動いた。 「ぼ、ボンゴレ!?なにして、うわあああああ」 「黙れ」 「な、いきなりこんなことしてなんなんですか!」 「だって話せないだろさっきのおまえじゃ」 「うっ、それは、そうですけど…」 「ったく、お前はどっちに行ったらいいかだけ教えてくれればいい」 世で言う、お姫様だっこという抱え方で移動をする。しばらくそのままでいると女は死ぬ気の炎を消した。ふう、なんて息をついている。なんだよ、疲れてんじゃん。 「ボンゴレ」 「なんだ」 「これから私が話す事はひとりごとです」 聞き流して下さいね。と言うと女は話し始めた。女の両親は病気で5歳のときに亡くなったらしい。それで引き取ってくれたのがいまのファミリーのボス、祖父だったらしい。15歳で日本の中学を卒業してマフィアに入り、ボスの秘書をやっていた。その4年後、つまりいまなのだが、あるファミリーが同盟を組みたいと言いよってきた。これは勢力を拡大するチャンスだと思い、ボスは相手のところへ行った。だが、それは叶わなかった。なぜなら、相手がいきなり銃で撃ち殺そうとしたからだ。その鉛玉は彼にはあたらず、彼の部下にあたったのだ。そしてそのまま、ボスもろともそこにいたファミリーは人質にされ、出された条件は「ボンゴレ十代目を連れてくる事」だった。絶対に殺すなという命令があるらしかった。だから、彼女は俺を殺すのだという。奴を、相手のファミリーを、憎んでいるんだ。 「あ、そこ右です」 「そろそろ、昼にしないか」 「そーですね…そうしますか」 「じゃあ降りるぞ」 「ありがとうございます」 なに食べたいですかーと言いつつも彼女はどこか暗い。俺を連れて行ったところで彼女も捕まるなんて目に見えている。彼女はそれを承知で行くのだ。本気、なんだ。 「ごめん」 「はい?」 「いや、なんでも…」 「ボンゴレ、私に殺されてくれますか」 「…っ、」 その問いに俺は答えられなかった。 5.Can you be murdered by me? うーむ、くらいくらいくらい 090803 星羅 |