黒い棺桶が俺の前を通る。久しぶり、と言っても2日ぶりのファミリーは騒がしかった。俺が帰ってきた、というのもあるが、俺が抱えていた女のこともあった。名前も知らない、壊滅してしまったファミリーにいた19歳の女だということしか知らないことを思い出して、後悔した。墓に名前さえも彫れないのだ。 「案外好きですよ、か」 最後に言われた言葉。死ぬ間際くらい、もっと違う事を言えばいいのに。なんか、こうこういうことがしたかったなあ、だとか。なんで本当に好きでもない男に好きだなんて言うのか。理解できないな。ていうか、俺の事、殺すんじゃなかったのかよ。そこまで考えて、山本の声が聞こえたから、そこを後にした。 「まあ、詳しい事は聞かねぇよ」 「ありがとう、助かる」 「で、これからどうするんだ?」 「え?」 「いや、この前のパーティーがだめになったから新しい同盟とか組めなかっただろ?」 「…ああ、そうだな」 ま、考えとけよーと言いながら山本は部屋を出て行く。なにを、するか、か。まあ、もうとっくに俺の中では決めているんだけど。とりあえず、いまはひとりがいい。 <2年後> あれから2年か。と外を見ながら思った。忘れもしない、あの2日間。だれにも話してないし、話す気もないけどあの出来事は俺に色んなものを与えた。ボスになる決心もついた。 「十代目!お呼びですか!」 「ああ、うん。このごろ勢力をつけてきたファミリーについて教えてほしいんだけど」 「そうですね、…ミルフィオーレファミリーでしょうか」 「…ボスは、だれ?」 「白蘭、だそうです。めずらしいですね漢字だなんて」 白蘭、という名前に俺の眉間が反応したのを気付いたのか、獄寺くんはこっちを見てきた。白蘭。懐かしい名前だ。 「獄寺くん、雲雀さんを呼んでくれる?」 「わかりました!」 白蘭の強さは俺が一番知っているんだ。なにをすればいいのか知ってるのも俺だ。過去を、変えるんだ。だれも、死にはさせない。そして今度は笑って過ごせればいい。時間があればどうにだってなる。気持ちだって変わるだろうなあ。…過去、か。正一にも連絡をしなければ。2年前から考えていたんだ。失敗は許されない。…って、なんで俺がここまでするんだ。とうとう俺もおかしくなったかな。っていうか今度会ったら、まずは名前を聞こう。墓に名前が彫れないからな。 「俺もなかなかお前のことが好きらしい」 まだ、愛してはいないけれど。 I like, but not love 完結!あとがき 090804 星羅 |