「奈美」 「っ、雲雀さん…」 「無理、してるでしょ」 あの雨の日以来、奈美は絶対に僕を避けている。委員会で会っても挨拶をしてくれなくなった。そして書類も全部草壁に渡すようになった。そして休み時間にはあまり姿を見せなくなった。どこを探してもいないのだ。きっと僕から逃げているんだろう。 「…そんなに嫌いなら僕に近づかないで」 「そ、そんな事…」 僕だって分ってるんだ。あの日の僕を見て奈美が心底僕の事を怖がっている事。そして近づきたくない、近づいてほしくない、名前も呼んでほしくない。見なくていいのなら見たくない、現実。でも現実は常にまとわりついてくる。 「もう、近くにいなくていいよ」 「で、ですが」 「赤ん坊達といればいい」 戸惑いながらも僕になにか言おうとする奈美。そんな姿も可愛いと思う。(もう末期だな、僕も)やっぱり、君はからかいがいが、あるね。(からかってるつもりはないんだけど) 「雲雀さ、ん…」 「なに?」 「私、雲雀さんがあんな人だとは知らなかったんです」 彼女は少し震えながら言葉を紡ぐ。こんなに長く話すのは久しぶりだ。何週間も話していない訳じゃないのにものすごく懐かしくて、そしてとても嬉しい。 「この前の雲雀さんは、雲雀さんじゃなかったです」 「僕は僕だよ」 口にぐ、と力をいれて奈美は震える声を止めている。体も少し震えていて、だんだん顔が下を向く。そんなに震えないでよ、そんなに泣きそうな顔をしないでよ。抱きしめたくなる。 「雲雀さんは、憧れだったんです」 「…そう」 「でも、違った…雲雀さんは、」 「…もういいよ」 僕が言うと奈美は顔を上げて、なにか言いたそうにしている。でも僕は次の言葉が恐くて、聞けない。なんて言われるか分らない。だから、言わせない。 06.もうじゅうぶんだから ( 君も、僕も、もうがんばらなくていい、怖がらなくていい) (初めからこうしておけば良かったのかもしれない) 080227 星羅 090308 書き直し |