「…」 今いるのは町外れの倉庫の前。なにもない。だけど殺気が至る所から自分に向けられる。久しぶりに受ける殺気は生々しく、そして久しぶりだった。ああ、やっぱり僕はこの世界が似合っている。 「出て来なよ」 ここまでくる途中に雨で濡れてしまった体は冷えてるはずなのに何も感じない。僕の声でぞろぞろと人が出てくる。ざっと見て40人。男たちは鉄棒やバッドを持っている。闘る気満々のようで、その状況がまた雲雀の気分をかき立てる。 「お前が雲雀恭弥か?」 「そうだよ」 この集団のボスであろう男はニタリ、と笑うと癖のある喋り方で大声を出した。 「お前には、俺に倒されるためにここに来てもらった!」 「…だまりなよ」 「俺はお前に戦いを申し込む!」 「めんどくさいからやだ」 そういうと男の顔の笑顔はより一層深いものになる。 「ならば、この女はもらってくぜ?」 男が指を指した先には手首を縛られて捕まっている奈美の姿。頬には雨なのか涙なのか分らない雫が伝っている。ごめんなさい、ごめんなさい、と謝る声が聞こえる。乱暴された跡は見当たらないが制服が少し汚れている。 「奈美を離せ」 「じゃあ俺と戦うんだな!」 「…気が向かないけど」 仕方なく、というふうに雲雀はトンファーを出して、男の背後に回る。それでもまだ男は気がつかない。それほど雲雀の身体能力は高いのだ。 「群れてる奴は嫌いなんだ」 「!ぐぁ…!」 体の大きい男はいとも簡単に倒れる。見た目とは違い、とても軟弱。こんな草食動物が奈美を触った、なんて。雲雀はふつふつと、怒り塊になりつつあった。 「お、おい…やられちゃったぜ?」 「に、逃げろ!」 「逃がさないよ」 「!!」 逃げようとする草食動物をトンファーで殴る。血が服に付こうと、男たちが血だらけで降伏したとしても。僕は敵を殴り続けた。地面にひとが倒れる音、許しを請う声、トンファーが体に当たる音。倉庫内はたちまち地獄と化した。 「…弱いね君たち」 この声を聞けた男は1人もいないだろうけど。せめてもの情けだ、と雲雀はトンファーについた血をとりながら思った。 「…奈美」 いまだに手首を縛られている奈美に近寄る。少しびっくりしたような顔をして僕を見ている。それにかまわずに僕は手首を縛っている縄に触れようとした。はやく、外したかった。これを結んだのが誰かは知らないけど彼女に近づいた事自体が嫌だ。 「やっ…」 僕が近づくと奈美は、僕から少し逃げた。後ずさりをする彼女の表情は恐怖の一色だった。ああ、あの男たちがよほど恐かったんだろう、かわいそうに。 「奈美…?」 「や、来ないで、!」 腕が縛られているのに立ち上がって僕から逃げようとする彼女の腕を掴む。すると彼女は異常な程反応する。いやだいやだ、と首を降って腕をひっぱる。僕が腕を放さないのが分かると、少し冷静になったのか静かになる、そして口を開いた。 「な、んですか?」 「これ、とってあげるよ」 そう言って僕は縄を外した。すると彼女はすぐに走り出して雨の中を逃げていく。追いかけようとする気持ちとは裏腹に僕の拒絶された体は一歩も動こうとはしなかった。 05.ぜんぶきみの声で (拒絶された、逃げられた、僕はどうしたらよかった?) 080227 星羅 090308 書き直し |