My dear! | ナノ


「ヒバリ!ヒバリ!」
「…どうしたの」


いつの間にか応接室で寝ていたようで、僕の肩に乗っている鳥が僕の名前を呼ぶ声で目が覚めた。こんな鳥でさえ雲雀、と呼び捨てで呼ぶのになんで奈美は呼んでくれないんだ。この鳥が僕を呼ぶ声が彼女だったら、という虚しい考えをして、セーターをくちばしでくわえる鳥を見た。


「デンワ!ナミカラ!ナミカラ!」
「!」


自分の携帯を見るとディスプレイには[奈美]と表示されている。確か、僕の電話番号を強引に教えて、奈美の電話番号もメールアドレスも教えてもらった。(決して強引に聞いた訳じゃない)


「…もしもし」
『ひ、ばり、さん…?』
「うん、そうだよ」
『っ、ひっく…うっ、ひ、ばりさ…』
「何、君。泣いてるの?」


電話越しに聞こえたのは奈美の鳴き声と雨の音。外を見ればまだ雨が降っている。それでも奈美の声だけが、はっきりとダイレクトに耳に聞こえてくる。なんで、なんで、どうして。


「今、どこにいるの」
『どこかの、倉庫です…』
「君、なにがあったの」
『わかりませ…ん、ひっく…』


分りません、てどういうこと。聞こうと思ったけどやめた。奈美は本当になにも分っていないみたいだったから。それに聞いて、もし事実を知ってしまったときのことを考えると言えなかった。


『ひっ、来てくださ、い…!』
「なんで?」
『話が、あるんです…』
「君が僕の所に来ればいいじゃない」
『!…うっ、ひばり、さっ…!」
「…わかったよ」


はぁ、と溜め息をついてポケットからバイクの鍵を取り出す。きっと倉庫は町外れにある。あそこは、暴力団やらヤクザ絡みでよく行くから道は分る。でも、だとすると奈美はどうしてそんなところにいるのだろう。


「じゃあ、行くからね」
『あり、がとうございま、す』
「切るよ」
『……たすけ、…!』


そして、電話は切れた。最後に聞こえた奈美の声。ちいさな、ちいさな悲鳴だった。きっと、たすけて、と言いたかったんだろう。でも、なんで途中で切れた…?


「奈美…?」



04.電話越しのちいさい言葉



(君の小さな声は僕の耳に響く)




080221 星羅
090308 書き直し