「綱吉ー」 「ん?どうしたの、奈美」 …消えてほしい。並盛中学校の風紀委員委員長、雲雀恭弥は素直にそう思った。目の前で話すのは赤ん坊と一緒にいる沢田綱吉。それと一緒に話しているのは風紀委員である、木下奈美。奈美が沢田の事を名前で呼ぶ度、ほんと噛み殺したくなってくる。 「そこ、群れるのやめてくれない?」 「ひ、雲雀さん!」 「委員長!」 沢田と奈美がほぼ同時に僕の名前を呼ぶ。それさえもがむしゃくしゃしていますぐ、ここでぐちゃぐちゃにして、そうすればこの気持ちだって少しは落ち着くはずだ、と雲雀は心の中で思うのであった。 「奈美、群れるのはやめてって言ったはずだよね?」 「す、すみません…」 「応接室、来て」 そう言って背を向けて応接室に向かって歩き出す。後ろで赤ん坊の声と沢田の声、そして彼女の声が聞こえる。廊下に響くその声が嫌だ。反響する廊下も嫌だ。噛み殺したくなる。 「ごめんね、行かなくちゃ」 「大丈夫だよ、俺の方こそごめんね」 「ううん、大丈夫だよ、じゃあまた後でね!」 沢田と話している奈美。なんでこんなにもむしゃくしゃするんだ。なにも響かない、なにも聞こえない学校の廊下は好きだ。ひとりでいられる。彼女の声が反響するとその世界が壊れる。僕の、好きな世界が、壊れていくんだ。 「ほんとごめんね、綱吉!」 ああ、このむしゃくしゃの理由はきっと、その体が、喉が、紡ぎだす音、君の奏でる声の所為なんだろうな。僕の世界は君の声さえなければ壊れなかった。ひとりでいられてなにもかわらずにいられたんだ。世界が壊れて僕が壊れたのも君のその声の所為だと言うのなら、その声を噛み殺せばきっとこれは治まる。 01.その声が呼ぶ名前 (君の音を、君の声を、この僕が消してあげる) 080214 星羅 090308 書き直し |