My dear! | ナノ


僕の我が儘を聞いてくれるかい?


「どうしてですか…」
「…呼んでよ」


僕がそう言うと奈美は口をぐ、と固く閉め、目も口と同じ様にぐ、と閉ざした。そんな彼女の目、喉の動きが少し変わるのがわかった。


「…どうしたの」
「雲雀さんは、なんでいつもそうなんですか」


奈美は口を開くといきなりそう言った。そしてそれに続いて話し始めた。彼女の瞳は真っ直ぐ前を見つめていた。(つまり僕を見ている)


「いつもいつも、私には理解できないんです」


別に、理解してもらおう、と僕は思ってない。別に理解されたからと言って何になるんだ。僕はひとりでいい。いままでだってそうやって生きてきた。群れるのを嫌って、群れる奴らをかみ殺す。それだけでいい。


「名前で呼べとか、関わるなとか」


だって、それが僕の本心。名前を呼んでほしいのも事実だ。だってなんであの装飾動物が名前で呼ばれていてなんで僕は委員長て呼ぶのか。負けた感じがする。ただそれだけ。関わってほしくなくなったのは君が悪いからだ。


「私の気持ちも考えてほしいんです…!」


だって君の気持ち、僕は知らない。そんなにいうなら教えてほしいくらいだ。


「雲雀、て呼ぶためにどれだけ私ががんばったんだと思ってるんですか!」


…ねぇ、それはどういう事?、て聞きたかったけど奈美が話し続けてるからやめた。いまにも消え入りそうな声で話すものだから、僕はいつしか感じた事のあるあの気持ちを思い出した。あの、奈美を抱きしめたくなったときの気持ちを。


「なのに…っ今度は恭弥って呼べとか、これ以上、」


奈美の黒の瞳に透明な水がぽろぽろとこぼれる。


「私に、期待を持たせないで下さい…!」


その言葉を聞いて僕の体はコントロールが出来なくなった。気が付いたら奈美は僕の腕の中にいた。奈美は僕の胸板を叩いているけれど僕は離す気なんてさらさらない。だって、ずっとこうなる事を願っていたんだから。


「奈美、」
「や、言わないで下さい…!」
「僕としては、期待してほしいんだけど」


そういうと奈美は顔を上げようとした、けど僕が止めた。いま僕はきっと顔がひどく赤くなってる気がするからだ。こんな顔、好きな女に見られたくない。


「それって、え、どういう事…」
「…言わなきゃ分らない?」


そう言いながら奈美と同じ目線の高さになる。すると奈美の顔は赤くなっておもしろい。きっと僕も赤くなったと思うけど。そして少しすると決心した様に顔を上げて奈美のちいさな口が動いた。(結局顔は赤いままだけど)


「私、雲雀さんの事が────んっ」


その先の言葉を聞きたいのは山々だけど、雲雀さん、だなんて僕としては気になる。どうせ言ってくれるのならよりいい様に言ってほしいじゃないか。だから口を塞いだ。


「ひ、ばりさ、な、なな、なにを!?」
「雲雀、なんて呼ばせないよ」


赤い顔で怒られても説得力はない。普段から説得力のかけらもないのにこうなってしまうとただの子供だ。子供の方がこちらとしては都合がいいんだけど。(可愛いし)


「名前で、呼んでくれる?ていうか呼んでよ」
「ど、うして?」
「…呼んでよ、」
「きょ、うや…?」
「うん、何?」


僕が聞くと奈美は目を泳がせる。顔を赤くして言葉を詰まらせる奈美はなんというか、あれだ。女の子とか女子とかではなく、”女”の顔をしていた。(新しい発見だ)


「私ね、き、恭弥…の事が────」


うん、満足だよ、奈美。



10.プリーズコールマイネーム



(これからは僕の名前をいっぱい呼んでよ、マイガール!)



あとがき

080307 星羅
090308 書き直し