気に入らない。 「ねぇ、ちょっと」 「ひ、雲雀さん!?」 僕は自分でもなにをしているのか一瞬分らなくなった。だって、弱い草食動物のためになんで僕が応接室から校庭に飛び出て奈美のところまで来るのか。体が勝手に動いた、とでも言うのだろうか。僕が声をかけると、言葉を返したのは沢田綱吉の方。奈美は顔を下に向けている。 「ちょっと奈美、貸してもらえる?」 「え、どうして…」 「どうでもいいじゃない。黙っててくれない?」 奈美を見ると奈美の瞳には僕が映っていた。その目は今まで見た事もない、目だった。深くて、でも鏡のように他の人を拒絶しているように見えた。 「とにかく、貸してもらうからね」 「ひゃ…」 奈美の腕を引っ張って横抱きにして走り出した。奈美は僕の顔を見てなにやら考えているようだったけど、僕はなにも言わなかったし、奈美もなにも言わなかった。 「…何か言いなよ」 「え?」 自分でも意味が分からない奴だ、と思う。もう僕に関わるなと言ったのは僕なのにここに連れてきて僕に関わらせたのはまたこの僕。矛盾してる、な。 「え、っと…なんで委員長は私をここに?」 ずんずん、と応接室に向かうべく奈美の腕を取りながら歩いている僕は足を止めた。彼女は今、なんて言った? 「…なんで"委員長"なの」 「へ…?」 「あの草食動物は名前で呼ぶのに」 「綱吉…の事ですか?」 「…」 僕がその名前に反応して奈美を睨みつけると目を見開き、慌てて口元に手を持っていく奈美。ふるふる、と小刻みに震える奈美は「あ、」と小さい悲鳴をこぼす。 「ごめ、んなさい、ひば 「その雲雀っていうのやめてくれる?」 え?」 僕が言うと奈美はさらに目を見開き、僕を見る。その目は先ほどのものではなくまた違った、鏡ではない生き生きしている。 「で、でも」 「恭弥、て呼びなよ。今すぐ」 奈美の黒い瞳はもうすっかり見開かれていて、口からは再び小さな悲鳴が聞こえてきた。僕は彼女の瞳から目をそらさない。ずっと目があうかたちになる。それでも彼女と僕の目はあったままだった。 09.ぼくの名前以外呼べなくなればいい (不器用だけどこれが僕なりのやりかた) 080303 星羅 090308 書き直し |