にゃおにゃおにゃお。

今日はぽかぽか良いお天気。お弁当も食べてお腹も満腹で、目蓋が重くなっちゃう。穏やかな陽の光が差し込む生徒会室のふかふかのソファで丸くなる。うとうとうと。いい気持ち。もういいかな。午後の授業なんて眠いだけ。まるでソファにずぶずぶと身体が沈んでいくみたいな感覚。あぁ、あぁ、あぁ、眠いなあ。眠っちゃおうかな。眠っちゃえ。くぅくぅくぅ。すぴすぴすぴ。すやすやす「おいこら」にゃっ。心地よいまどろみに身を任せていたら突然首根っこを掴まれ持ち上げられた。強制的な目覚めに気分は急降下。「放せアホベ」「黙れ副会長」首根っこ掴まれて手がぶらんと垂れる。あーあセーターが伸びちゃうよ。「もう放課後だぞ」跡部の言葉にちらりと窓の外を見ればなるほど真っ赤な夕焼け空。通りでお腹がくぅくぅ鳴いてる訳だ。「帰る、放せ」「あーん?誰に口聞いてんだ」「うるさい死ね」きっと跡部はこのままわたしを送るとか言い出す。跡部の車はふかふかで気持ち良くて好きだけど、跡部とふたりなのは気にくわない。だからひとりで帰る。跡部はまだ首根っこから手を放さない。跡部は最近わたしの首根っこを掴みすぎだと思う。わたしは猫じゃない。いい加減放せとその手に爪を立てようとしたら。そのままぐっと引かれ、跡部とわたしの唇がぶつかった。びっくりして開いた口からぬるりと生温かい舌が入り込んでくる。思わず歯を立てようとしたら、舌を絡められくぐもった変な声が口から漏れただけだった。息の仕方も分からないし、何をどうしたらいいのかもわからない。跡部から解放されたころにはわたしの息はあがって、目も潤んでいた。「はっ…エロい顔」口唇についた唾液を親指で拭う跡部。かっと顔が熱くなって思わずその顔めがけ手を振りかぶった。ばりっという音に一瞬遅れて跡部のほっぺに走る赤い3本の線。「アホベのばか!死ね!百万回死ね!」がばりと跡部の腕を払って生徒会室から走り去る。信じらんない。跡部なんか嫌い。大っ嫌い。赤くなる頬なんて知らない。ごしごしとセーターの裾で口唇を拭きながらひんやりと冬の訪れを告げる廊下を急いだ。


「色気のねー爪痕」夕暮れで橙色に染まる生徒会室。窓ガラスに写る自身の頬に残った蚯蚓腫れをなぞる。常日頃より猫のような言動が目立つ女だが、まさか咄嗟にひっかくとは。予想外の反撃にくつくつと喉が低く鳴る。さっきのアイツの真っ赤に染まった頬が頭をよぎる。「…まぁ、悪くねえじゃねえの」そろそろ手癖の悪い野良猫に躾してやらねえとな。


ずるさの温度は38



111009 title.is