遮光カーテンで仕切られた部屋に光は差し込まない。ほんのわずかに開いた隙間からこぼれ落ちるように部屋を照らす陽光は、煙で白んだ部屋の中をゆっくりと浮遊する埃ばかりを照らす。指の隙間に挟んだタバコの先から音もなく灰がフローリングの床に落ちる。

主を亡くした部屋はのんびりと朽ちていく。ときどき立ち寄って鍵を開けて入れば、噎せ返りそうなほど充満する彼の匂いに頭が痛くなる。生を持つモノは何一つ置いていなかった部屋に、唯一置いてあったわたしが持ち込んだ小さな観葉植物は、茶色く枯れてしぼみ、お情け程度の鉢植えの土と同化している。

ひとつ、紫煙を肺いっぱいに吸い込んでから吐き出せば、新たな煙が部屋を満たす一部となる。思い出、なんて綺麗なものはもうない。あるのはただ首にまとわりつく枷とこの部屋だけ。
淡白な彼が、唯一わたしだけに思い出したように執着するのが嬉しかった。でも今はそれも過去のこと。彼からの愛は今やわたしにとってゴムの首輪のようだった。積もり積もった光みたいにきらきら輝く綺麗な愛も、今はもうこの灰皿に溜まったタバコの灰みたいに肺の奥深くに重苦しく沈殿している。

「ごめん」と口癖みたいに言っていた貴方が本当に最初から悪かったの。いつ自分の存在理由を果たすかそればかり考えて本当に愛してたなんてそんなの愛なんて呼ばないじゃない。いつも愛してるという言葉でわたしを縛り付けて、そのくせ自分は何も言わないで出て行って。棺桶の中、穏やかな顔で眠る貴方の顔が浮かんで消えては紫煙に溶けていく。あれだけ煙に紛れた貴方が、本当の煙になって空の青に滲んでいくのが酷く馬鹿らしかった。

この部屋を照らす陽の光みたいにきらきら温かくて綺麗な愛は今はもうタバコからこぼれる灰みたい。あれだけ貴方の愛で満たされていたのに、貴方がいない今はもうそれはなんの意味も為さずに重く、わたしにまとわりつくだけ。

ふう、とまた紫煙を吐き出す。あの頃と変わらない部屋に、あの頃と変わらないにおい。
ただ貴方だけが足りないまま、彼の愛があの日からずっと、わたしの首を絞めあげるのだ。


たとえば朝からクーラーがわたしを人工的に冷ますみたいに



title.へそ
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120722 ささづかさん、
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