紫煙が部屋の中に満ちる。煙が薄暗い部屋を漂い沈殿する。真っ白なシーツも、薄暗い部屋の中ではその白さは映えない。

「お前、煙草嫌がんねぇよな」

自分は吸わないくせに、
隣に寝転びクッションを枕に寝煙草するサッチは煙草を吸いながらふと思い出したように呟く。

「副流煙がすきなの」

ぼうと煙の末路を辿っていた視線を彼に向けつつそう応えれば、サッチは目尻に走る傷に皺を寄せ器用に片眉をあげた。

「なんでまた」

不思議そうに尋ねるその様がなんだか可愛くて、くすりと笑みが漏れる。それが不服だったのか、サッチの眉が僅かにひそめられた。宥めるようにくるりと体を反転させ、彼の逞しい腕にぴとりとくっつくようにうつぶせになって彼を仰ぎ見た。

「だって、サッチが吐き出した煙がわたしの肺を満たすんだよ?それってすごく素敵なことじゃない?」

なにものにも阻まれないで触れ合った肌は、互いに吸いつくように体温を馴染ませる。サッチはぽろりとくわえていた煙草から灰を落とし、動きを止めたままわたしを見つめる。その反応がやっぱり可愛くて、またくすりとひとつ笑みを浮かべて彼の口元に手を伸ばし、火のついたままの煙草を抜き取った。少しだけ上体を起こして彼のほんのりかさついた口唇に自分のそれを重ねれば、サッチの口から漏れた煙がわたしの咥内を満たす。

「それに、これから先わたしが死ぬとき、死因が肺ガンだったりしたら最高にしあわせでしょう?」

死すらサッチから与えられたもので染まれるのよ?
口唇が触れそうな距離でそう告げれば、サッチの瞳の奧の獣がざわりと顔を出し、まるで食らいつくみたいにわたしの口唇を貪る。指からすり抜けた吸いかけの煙草がシーツに落ちるのも構わず、ただ与えられる悦楽に浸る。
ああ、侵される。舌が、喉が、肺が、心臓が。
あなたの全てで満たされる。


止めどなくゆるやかに
(まだ、夜は明けない)



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