爪先:崇拝/竹中

※マフィアパロディ

断続的な破裂音が豪奢な屋敷に響いた。弾かれたように足が主の部屋へと向いた。縺れる足を叱咤し、死に物狂いでレッドカーペットが敷かれた階段を駆け上がる。ノック無しでわたしだけが入室を許されている部屋の扉に手をかける。

「竹中様ッ!!」

観音開きの重厚な扉を勢いよく開け放った先。すべては終わっていた。大理石の床に散らばる襲撃者の肉片。肌の色さえも窺えない、臓物ばかりが竹中様を中心に円を描くように散乱していた。

「遅いよ」

鏨で彫られた石膏のように白い肌、柔らかなウェーブを描く白銀の髪、白いバスローブに身を包んだ竹中様は返り血で真紅に濡れていた。ぞっとするほどに美しく、そして妖しさを放つ瞳で見つめられ、呼吸が止まる。

「っも、…申し訳ありません…」

ひゅうひゅうと喉が鳴る。息がうまくできない。ぶるぶると震え出した拳に、自ら爪を立てた。

「まぁいい」

まるで羽根が生えているのではないかと見紛うほど重さを感じさせない動きで、竹中様は積みあがったピンク色の肉片を踏み潰し、バスローブを肩から落とす。

「おいで」


血に塗れた関節剣をシーツに放り投げ、竹中様はベッドに浅く腰を下ろす。菫色の瞳が、わたしを射抜く。無言でその足元に跪くと、竹中様がすっと足を組み、眼前に差し出される白く美しい御足。見上げれば、柔らかな微笑みを浮かべる竹中様の御顔。恐る恐る震える手で血に塗れた足に触れた。そっと舌を差し出し、どこの誰とも知らない襲撃者の血を舐めとる。舌を這わせたところから竹中様のギリシア彫刻のような滑らかな白が顔を出し、わたしは夢中で舌を這わせた。
わたしは今、神に触れているのだ。自然と荒くなる呼吸を隠すように音を立てて爪先にキスを落とせば、神は笑みを深くした。


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