喉:欲求/阿近


白い肌に骨ばった異物が存在を主張する。わたしにはないそれが上下に動く度、酷く扇情的な気分になる。薄く滑らかな曲線を描く首筋に隆起した喉仏。白衣に包まれソファに横たわる肢体を跨いで馬乗りになれば、阿近は厭らしい笑みを浮かべた。
彼の胸に手を突いて、額から盛り上がる3本の角の根元と先端に口唇を寄せる。ちゅ、ちゅ、と音を立てて、目蓋、目尻、鼻梁、頬、顎に吸い付く。彼はわたしを制することなく、ただ横たわったまま愉快そうに口端を歪め、されるがままになっている。
上体をかがめ、顔を斜めにして彼の喉に吸いつき、舌でなぞる。無機質な味がした。舌をひっこめるかわりに軽く歯を立て、あぐりと甘噛み。
すると、ぴくりと彼の身体が跳ねた。

気がついたときには形勢逆転。わたしの身体は、硬いソファに沈んでいた。

「随分煽り方がうまくなったな」
「…阿近のせいだよ」
「そりゃ光栄だ」

そう言って彼もわたしの喉に歯を立てる。

結局、わたしたちはいつだって欲求不満なのだ。



110909