ぱちぱちと線香花火がはぜる。月明かりの優しい光が夜を照らしていた。政宗は相変わらず縁側に腰掛け、線香花火の火の玉をぼんやりと見つめている。ぽとり。地面に火の玉が落ちた。じりじりと火花を散らし消えていく。

「まさむね」

ただの紙糸になってしまった線香花火をぶら下げたまま、彼の名を呼んだ。政宗はなにも言わなかった。

「わたし、しあわせだよ」

じわじわと一足先に、秋の虫たちが音の少ない夜を彩る。
置き石の上の蝋燭がゆらゆらと揺れていた。

「…俺も、しあわせだ」

庭先の小川を淡い橙色の明かりを灯した灯籠が流れていく。花火を握り締めたまま、体を丸めてうずくまる。涙は見せないと決めていた。

「…またな」

そう言ってわたしの頭を撫でる政宗の声が、なんだか泣いているように聞こえて。顔を上げた先に、政宗の姿はどこにもなかった。ゆらゆらと流れていく灯籠が、涙で歪む。

「またね、政宗」

情けないほど震える声と霞む視界。
遺影の中の政宗は、相変わらず優しい笑みを浮かべていた。


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