海に行こうと言った。
短パンのポケットにお財布だけ詰めて、寂れた駅までの道のりを歩く。一両だけしかない電車に乗って、がたがたと揺れる車内でふたり並んで座った。真夏の陽射しが容赦無く差し込む車内には、天井に設置されている扇風機の羽の音だけが小さく響いている。
政宗もわたしもなにも話さない。彼はずっと、窓の外を流れていく景色を見つめていた。


「…あついね、」

電車から降り、ちらほらと海水浴を楽しむ子どもがいる砂浜へと足を踏み出せば、火傷しそうなほどに熱せられた砂が足の裏を襲って、慌てて波打ち際まで避難した。

「そうだな」

海と空のずっと向こうを見つめて、政宗はぽつりと答える。じりじりと照りつける陽射しのせいで汗が顎を伝うのに、政宗はどこ吹く風といった表情で流れる入道雲を見つめている。どりゃっと水を掛けても彼は知らん顔で、乾いた砂浜に海水が色をつけただけだった。

「…蒼いね」

空はどこまでも青くて、海もどこまでも碧くて。彼の隻眼にもおなじ色が広がっているのかと思ったら、なんだかどうしようもなく泣きたくなって。
政宗に背を向けて、海に足を浸しながら声を出さずに泣いた。

帰りの電車は裸足で乗った。先に乗車していたひとが怪訝そうに眉を顰めたけど、何も気にせず、端っこの座席に政宗と手をつないで腰をおろした。燃えるような夕焼けが車内を橙色に染めて、政宗の横顔も同じ色に染める。
やっぱり政宗の手は、どうしようもなく冷たかった。


その手にもう愛されないんだね
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