ごっと鈍い打音が耳に届くのと同時に、脳が揺れた。床に肩を強かに打ちつけて、強い衝撃を全身で受け止める。休む間もなく腹を思い切り蹴りあげられ、一瞬意識が飛んだ。僅かに浮いた身体が、背後に鎮座したソファにぶつかり、息が詰まる。

「勝手にトんでんじゃねぇよ」

意識が飛ばないように手加減された力で腹を幾度も蹴られ、糸が切れた操り人形のように手足を床にだらりとあずけ、訪れる衝撃のままに身体を揺らす。詰るように横たわった身体を蹴られて仰向けにされる。そのまま思い切り腹を踏まれ、思わずこみあげて来た生臭い鉄の匂いを嚥下した。
口の中に広がった鉄の味に、咥内を切ったのかとぼんやりと考える。
ぼうっとしていたのが気に食わなかったのか、勢いよく襟首を掴まれ、まるで首が据わっていない赤ん坊のように首ががくりと垂れた。

「色目使って」

侮蔑を含んだ冷やかな瞳で射竦められ、まるで酸素が行きわたっていないみたいに脳が痺れる。

「誰にでも股開きやがって」

焦げ茶色の彼の隻眼がきゅうっと細められ、乱暴に襟を放され、後頭部がぐらりと揺れる。

「お前の瞳に映っていいのは、この俺だけだ」

私を見下ろすその瞳は悲しげに揺れ、握り締めた拳は血の気がなく、ぶるぶると震えていて。
ああ、いとしい。

「ま、さむね」

掠れた声で彼の名を呼ぶ。酷くだるさの残る身体に鞭を打ち、仰向けのまま彼に向かって両手を伸ばした。服の裾から覗く自分の腕に残る青痣にさえ、愛しさが募る。

「まさむね」

片方しかない目を大きく見開き、私を見下ろす政宗の名をもう一度呼ぶ。
そうすれば、彼は今にも泣きだしそうに顔を歪め、弾かれたように優しく私を抱き締めた。

「ごめん…ごめんな…もうしねぇから……ごめん……」

震える声音は、彼が涙を流さずに泣いていることをわたしに伝える。
そっと背中に手を伸ばせば、わたしよりずっと広い背中は怯えるように震えていた。ぽんぽんとあやすように背をたたけば、すりすりと首筋に鼻をこすりつけてくる。

「俺には、お前しかいねぇんだ…」

ぽつりとこぼされたのは、甘い甘い睦言。
その甘美な囁きに答えるように、わたしは政宗の耳元に口唇を寄せた。



愛してあげる




110627
佐助は水責め、政宗は暴行っていう勝手なイメージ