わたしは、愚かな女だ。
大切なものは失ってから気付く。そんな陳腐な表現しかできやしない。

暗い部屋にひとり酒を片手にボーっと深夜番組を垂れ流す。積極的に見ている訳ではない。ただ、流れている映像が眼球に映っているだけ。
青白い明かりが、生気を失った顔を照らし出す。明かりをつけるつもりはない。つけたら見たくないものまで見てしまう。

「いいよな、夏って」

アイツはよくそう口にしていた。今思えば、事あるごとに口癖のようにそう呟いていた気がする。あまり気にも留めていなかったから、暑苦しいヤツとしか、考えていなかった。
夏はアイツの季節だったのに。

「ちょっと出かけて来るわ」
「うっさい暑苦しい話しかけんな消えろ」

その日わたしは生理二日目で、とにかくイライラしてて、周りの全てが煩わしくて、空気すらもうっとうしく感じて、感情のままに口から言葉を吐き出した。
アイツは少し困ったような顔をして笑っていた。
それから何か言いたげに口を少し開いてから何も音を発することなく閉ざされた。
よれよれの白いシャツが翻る。履き潰したぺったんこのサンダルが音を立てる。焦げ茶色のドレッドが揺れる。
ひょろっとした身体を屈めて逆光の中に溶けるように消えて行った。
残ったのはドアの閉まる音と、下腹部の鈍痛だけだった。

わたしは信じて疑わなかった。アイツが、わたしを好きでいることを。
アイツはずっとわたしのことが好きなんだと、馬鹿みたいに盲信していた。なんの根拠もなかったのに。
いくらわたしが誰かと浮気しようと、自己中に振り回そうと、アイツはいつもへらりと笑っていたから。
どんなことをしたってアイツは、わたしから離れないと思ってた。

あれから3ヶ月。夏はもう終わろうとしている。
蝉は死んだ。線香花火も死んだ。夏祭りのお囃子も、スイカも、うだるような暑さも、熱中症も、みんな、みんな死んだ。
ラクヨウは帰って来ない。あのバカみたいな笑い顔はもう見れない。
酒を呷る。喉がやける。死にたくなるくらい、ラクヨウが好きだと気がついた。



もえがらを口にする

企画夏バカ様提出
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