尾張のうつけと恐れられる彼の御方は、決まって月の昇らない夜にわたしの元へと足を運ぶ。側室とも言えない、ただの色人形のわたしの元に。行灯をひとつだけ灯した薄暗い寝所で、毎度わたしを壊すように抱き潰す信長様は、決して子種をくださらない。戦国の世、色小姓や衆道が当然視され、正室だけでなく側室が身籠るのも決して珍しくはない。だのに、信長様は決してわたしの中で果ててはくださらない。
行灯も消えた真っ暗闇。幾分闇に慣れた目で、背中を向け襦袢を羽織るその背中にそっと指で触れた。
「信長、さま」
わたしの声はか細く震え、きっと彼の御方に触れた指先も細かく震えていただろう。
「貴様を孕ませる気はない」
まるでわたしの胸の内を見抜いたような低い声が、鼓膜に突き刺さる。
「貴様はその身を差し出しさえすればよい。さすれば余が直々に愛でてやろうぞ」
言葉同様乱暴にわたしを嬲るその両手は、この戦国の世で赤い血色の修羅の道を切り開くのだろう。わたしは、彼の御方の隣りには立てない。
その覇道の、礎にもなれないのだろう。
そうぢゃあなゐのです
いっそ貴方様の血肉になれたなら
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110721